2021年夏、新宿駅東口の巨大な猫映像が注目されたが、今度は渋谷で3Dの“秋田犬”が話題になっている。8つのビジョンが連動したこの“カラクリ時計”映像は、現地で撮影する人も多く、SNSでも話題に。背景には、「下を向きがちなコロナ禍でも、上を向いて明るい気持ちになってほしい」との願いがあったという。コロナ禍において経験した「外に出づらい」という状況の中で、「外に出て目にしてこそ」の屋外広告は、どんな影響を受けたのか。アナログ的な手法で、デジタル的な進化を遂げる屋外広告の現在と未来について、運営する株式会社ヒット・渡部雄満さんに話を聞いた。
■予想外に反響に驚き、下を向きがちなコロナ禍の中で「上を見上げて明るい気持ちに」
この「超巨大“秋田犬”3Dカラクリ時計」は、7月29日に放映開始され、1時間ごとに登場して時を知らせている。単に犬が登場するだけでなく、渋谷駅宮益坂口側の7つのビジョン、ハチ公前側のビジョン計8つが連動し、移動する犬の動きを追ったり、フリスビーが投げられたりする。この可愛らしい映像には行きかう人々も足を止め、猛暑のなかスマホを構える人も続々。その映像や写真がSNSに投稿されると、多くの反響を集めた。
運営する株式会社ヒット・渡部雄満さんは、「ここまで反響があるとは思っておらず、驚いています。SNSでも好評で、秋田県の方、秋田犬愛好家の方にも喜んでいただけて。テレビで観たという声も届いており、うれしいですね」と、予想外の展開に驚きを見せる。
もともと同社は、屋外広告を扱う会社。今回の企画も、そもそもは広告主や代理店に8面ビジョンを連動させた広告の見せ方をアピールする狙いがあったという。当初はアート映像を流す案もあったが、途中で方向性が変わった。「街に出るのをためらうこともあるコロナ禍の中で、つい下を向きがちになりますが、上を見上げて可愛らしい映像で明るい気持ちになってほしいと思い、動物の映像になりました。秋田犬になったのは、やはりハチ公にあやかって…という理由です」。
8面を使った秋田犬の映像は、それぞれが連動しつつ異なる内容を流している。たとえば、フリスビーが犬に向かって投げられるシーンも、一つは犬の正面から、一つは横から…と、ビジョンによって見える映像が違うのだ。これまでも、複数のビジョンが同じ映像を流す手法はあったが、今回のような多くの面数での仕掛けは「国内では他にないのでは?」と渡部さんは自信を覗かせる。
巨大3D映像としては、昨年話題になった“新宿東口の猫”が思い出されるが、「新宿が猫だから渋谷が犬、というわけではなく、あくまで8面でどう見せるかを考えた結果」とのこと。ちなみに、新宿の猫映像を放映する株式会社ユニカの担当者は以前、「渋谷の“ハチ公”、池袋の“いけふくろう”のように愛される動物として、猫にした」と明かしている。どちらも大人気となった猫と犬、素人考えでは「コラボレートしてくれたら面白い」と思ってしまうが…。
「実は、本当にこんなに話題になるとは思っていなくて(笑)、その後の展開についてもあまり考えていなかったんです。もちろん、新宿の猫ちゃんとコラボできるような日が来たらいいなとは思うのですが、CG映像なので作り直すにはかなりお金がかかり、しかも8面分作らないといけなくなるので、いちサラリーマンの私の口からはなんとも…(笑)。でも、いつかそんなことができるなら面白いですね。お互い頑張っていきましょう!と言いたいです」
■「人が外に出ないことには価値を生まない」、屋外広告の苦境と意外な堅調ぶり
今回の「超巨大“秋田犬”3Dカラクリ時計」もそうだが、一口に屋外広告と言っても、固定のものから今回のようなデジタルサイネージまで、年々進化を見せている。広告を掲出する場所も、内容に大きく関わるという。
「私たちは広告面を用意して提案するだけで、内容自体は広告主さんが決めます。この渋谷という場所も以前は10代、女子高生の街と言われてきましたが、今ではIT企業が居を構えたり、高級ショップが立ち並ぶところも。データを見ても、10代から60代まで幅広い世代が分布している街だと言えます。それだけに、掲出する広告も若い層狙いだけでなく、ある意味、テレビで企業広告を流すことに似た、マス広告としての意味合いが強くなってきたのではないでしょうか。今回の秋田犬映像も、幅広い層に楽しんでいただけていると思いますね」
変化する街に、変化する広告。とはいえ、前述のようにコロナ禍で「人々が外に出にくくなった」ことは、屋外広告にとっては致命的なのではないか。
「屋外広告は人が外に出ないことには価値を生まないため、逆風であることは確かです。感染状況が少し落ち着いたときには状況も上向きになりましたが、コロナ禍前までほどは戻っていない。現在も感染増加の中なので、とくに繁華街の広告は絶好調とは言えないですね」
だが、一方で意外にも好調な屋外広告もあるという。それが首都高速道路や新御堂筋など主要道路沿いにある大型ビジョンだ。
「繁華街の看板広告が厳しくなっても、“ロードサイド”と呼ばれるこうした広告は比較的堅調です。コロナ禍の影響で繁華街は歩きにくくなりましたが、車での移動はあまり影響を受けません。それだけにロードサイド広告が目に触れる機会も相対的に増し、そこに出稿したいという広告主さんも多いのです」
屋外広告といえば、それが固定看板だとしても、デジタルサイネージのような電子機器を使ったものでも、その場所で人が直接目にしなければ効果は生まない。インターネット広告のように、スマホやPCさえあればどこでも掲出できるものとは違い、ある意味で“アナログ”的手法と言えるだろう。2021年には、インターネット広告費がマスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の合計の広告費を初めて上回っている。人々の生活に合わせて広告も年々変化する中で、アナログ的な屋外広告は生き残っていけるのだろうか。
「これは私見ですが、屋外広告はインターネット広告と違った体験を提供できると思っています。ネットであればどこにいても見られますが、屋外広告はその場に行かないと出会えない。ネットだと何度も同じ広告が出てくるのを嫌う方もいらっしゃいますが、屋外広告だと1年間同じものを見続けてもストレスを感じることはあまりないと思うんです。それだけ街の風景に溶け込み、その一部として味わうこともできるのではないでしょうか」
確かに、大阪・道頓堀のグリコ看板にしても、東京のビルの屋上に長年掲げられた看板にしても、もはや街の風景の一部として認識している人は多いだろう
「時代は変わっても人類が移動をやめない限り、何かを見せたいという人や企業がある限り、屋外広告の需要は残ると思っています」。
今回の「超巨大“秋田犬”3Dカラクリ時計」もまた、そうして街の風景として馴染み、人々の記憶に残っていくかもしれない。
「今回は盛り上げていただいて本当にありがたいですし、シンプルに楽しんでいただければと思います。ハチ公前広場や宮益坂交差点のあたりで映像を見ていただく方は、密にならないように、また熱中症にも十分お気をつけいただければと思います」。
※動画は午前7時〜午前0時の間、毎時0分に30秒放映。当面、午後7時は放映がなく、メンテナンスや広告放映の関係で実施されない時間もある。
★YouTube公式チャンネル「ORICON NEWS」
■予想外に反響に驚き、下を向きがちなコロナ禍の中で「上を見上げて明るい気持ちに」
この「超巨大“秋田犬”3Dカラクリ時計」は、7月29日に放映開始され、1時間ごとに登場して時を知らせている。単に犬が登場するだけでなく、渋谷駅宮益坂口側の7つのビジョン、ハチ公前側のビジョン計8つが連動し、移動する犬の動きを追ったり、フリスビーが投げられたりする。この可愛らしい映像には行きかう人々も足を止め、猛暑のなかスマホを構える人も続々。その映像や写真がSNSに投稿されると、多くの反響を集めた。
運営する株式会社ヒット・渡部雄満さんは、「ここまで反響があるとは思っておらず、驚いています。SNSでも好評で、秋田県の方、秋田犬愛好家の方にも喜んでいただけて。テレビで観たという声も届いており、うれしいですね」と、予想外の展開に驚きを見せる。
もともと同社は、屋外広告を扱う会社。今回の企画も、そもそもは広告主や代理店に8面ビジョンを連動させた広告の見せ方をアピールする狙いがあったという。当初はアート映像を流す案もあったが、途中で方向性が変わった。「街に出るのをためらうこともあるコロナ禍の中で、つい下を向きがちになりますが、上を見上げて可愛らしい映像で明るい気持ちになってほしいと思い、動物の映像になりました。秋田犬になったのは、やはりハチ公にあやかって…という理由です」。
8面を使った秋田犬の映像は、それぞれが連動しつつ異なる内容を流している。たとえば、フリスビーが犬に向かって投げられるシーンも、一つは犬の正面から、一つは横から…と、ビジョンによって見える映像が違うのだ。これまでも、複数のビジョンが同じ映像を流す手法はあったが、今回のような多くの面数での仕掛けは「国内では他にないのでは?」と渡部さんは自信を覗かせる。
巨大3D映像としては、昨年話題になった“新宿東口の猫”が思い出されるが、「新宿が猫だから渋谷が犬、というわけではなく、あくまで8面でどう見せるかを考えた結果」とのこと。ちなみに、新宿の猫映像を放映する株式会社ユニカの担当者は以前、「渋谷の“ハチ公”、池袋の“いけふくろう”のように愛される動物として、猫にした」と明かしている。どちらも大人気となった猫と犬、素人考えでは「コラボレートしてくれたら面白い」と思ってしまうが…。
「実は、本当にこんなに話題になるとは思っていなくて(笑)、その後の展開についてもあまり考えていなかったんです。もちろん、新宿の猫ちゃんとコラボできるような日が来たらいいなとは思うのですが、CG映像なので作り直すにはかなりお金がかかり、しかも8面分作らないといけなくなるので、いちサラリーマンの私の口からはなんとも…(笑)。でも、いつかそんなことができるなら面白いですね。お互い頑張っていきましょう!と言いたいです」
■「人が外に出ないことには価値を生まない」、屋外広告の苦境と意外な堅調ぶり
今回の「超巨大“秋田犬”3Dカラクリ時計」もそうだが、一口に屋外広告と言っても、固定のものから今回のようなデジタルサイネージまで、年々進化を見せている。広告を掲出する場所も、内容に大きく関わるという。
「私たちは広告面を用意して提案するだけで、内容自体は広告主さんが決めます。この渋谷という場所も以前は10代、女子高生の街と言われてきましたが、今ではIT企業が居を構えたり、高級ショップが立ち並ぶところも。データを見ても、10代から60代まで幅広い世代が分布している街だと言えます。それだけに、掲出する広告も若い層狙いだけでなく、ある意味、テレビで企業広告を流すことに似た、マス広告としての意味合いが強くなってきたのではないでしょうか。今回の秋田犬映像も、幅広い層に楽しんでいただけていると思いますね」
変化する街に、変化する広告。とはいえ、前述のようにコロナ禍で「人々が外に出にくくなった」ことは、屋外広告にとっては致命的なのではないか。
「屋外広告は人が外に出ないことには価値を生まないため、逆風であることは確かです。感染状況が少し落ち着いたときには状況も上向きになりましたが、コロナ禍前までほどは戻っていない。現在も感染増加の中なので、とくに繁華街の広告は絶好調とは言えないですね」
だが、一方で意外にも好調な屋外広告もあるという。それが首都高速道路や新御堂筋など主要道路沿いにある大型ビジョンだ。
「繁華街の看板広告が厳しくなっても、“ロードサイド”と呼ばれるこうした広告は比較的堅調です。コロナ禍の影響で繁華街は歩きにくくなりましたが、車での移動はあまり影響を受けません。それだけにロードサイド広告が目に触れる機会も相対的に増し、そこに出稿したいという広告主さんも多いのです」
屋外広告といえば、それが固定看板だとしても、デジタルサイネージのような電子機器を使ったものでも、その場所で人が直接目にしなければ効果は生まない。インターネット広告のように、スマホやPCさえあればどこでも掲出できるものとは違い、ある意味で“アナログ”的手法と言えるだろう。2021年には、インターネット広告費がマスコミ4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の合計の広告費を初めて上回っている。人々の生活に合わせて広告も年々変化する中で、アナログ的な屋外広告は生き残っていけるのだろうか。
「これは私見ですが、屋外広告はインターネット広告と違った体験を提供できると思っています。ネットであればどこにいても見られますが、屋外広告はその場に行かないと出会えない。ネットだと何度も同じ広告が出てくるのを嫌う方もいらっしゃいますが、屋外広告だと1年間同じものを見続けてもストレスを感じることはあまりないと思うんです。それだけ街の風景に溶け込み、その一部として味わうこともできるのではないでしょうか」
確かに、大阪・道頓堀のグリコ看板にしても、東京のビルの屋上に長年掲げられた看板にしても、もはや街の風景の一部として認識している人は多いだろう
「時代は変わっても人類が移動をやめない限り、何かを見せたいという人や企業がある限り、屋外広告の需要は残ると思っています」。
今回の「超巨大“秋田犬”3Dカラクリ時計」もまた、そうして街の風景として馴染み、人々の記憶に残っていくかもしれない。
「今回は盛り上げていただいて本当にありがたいですし、シンプルに楽しんでいただければと思います。ハチ公前広場や宮益坂交差点のあたりで映像を見ていただく方は、密にならないように、また熱中症にも十分お気をつけいただければと思います」。
※動画は午前7時〜午前0時の間、毎時0分に30秒放映。当面、午後7時は放映がなく、メンテナンスや広告放映の関係で実施されない時間もある。
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2022/08/10