今夏公開され、全世界で興収100億円に迫る大ヒット作となった劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』。これまで登場したほとんどすべての海賊たちが大集結し、尾田栄一郎氏による原作とも密接にリンクするアイテムも登場するなど、アニメ20周年にふさわしい超大作となった。先日、『ONE PIECE』が「あと5年で終わる」という尾田氏の発言も話題に。今回の映画と原作の関係性、尾田氏の発言が意図することとは? 編集担当の内藤拓真氏(集英社 週刊少年ジャンプ編集部)を直撃取材した。
■『STAMPEDE』で初めて「ラフテル」を出した意味
――劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』が全世界で興収100億円に迫る大ヒットとなりましたが、内藤さんが思うヒットの要因は何でしょうか?
【内藤】圧倒的にいい映画だった。何を置いても、やっぱりそれに尽きます。「ウィーアー!」や「memories」など歴代の『ONE PIECE』を彩った名曲が流れるという20周年映画ならではの演出も随所にあったし、ウソップがすごくカッコよかった。ウソップの姿には『ONE PIECE』の20年が凝縮されていたように思うんです。『ONE PIECE』をずっと追いかけてきてくれた皆さんも、きっといろいろな思い出を重ねながら観てくれたのではないでしょうか。
――国内だけで55億円を超えていますが、海外でも40億円超えのヒットを記録しています。
【内藤】はい。『ONE PIECE』の認知度が世界的に上がっているのを肌で感じています。例えばフランスの公開初日には、劇場に集まった大勢のファンが、日本語で「ウィーアー!」を合唱してくれていたり。中国でも、見た事のない盛り上がり方をしていました。20年やってきたからこそ「麦わら帽子の赤いやつがいる」という存在感が全世界に届いてきた、そういう実感がすごくありました。
制作側もそうで、『STAMPEDE』のラフ映像をみんなで初めて見た日、スタッフ全員確かな手応えを共有できて、ぼくら担当編集なんて感動と安堵で号泣してしまったのを覚えています。ただそんな中で尾田さんだけは一人冷静で。もちろん物凄く良い出来だと言っていましたが、あの試写の時、尾田さんは「現時点で最高だね。僕がこの先描く原作の終盤は、まだまだこんなもんじゃないから」と言ったんです。
『STAMPEDE』を見た人の感想には「最終回っぽい」というのも結構多かったのですが、尾田さんに言わせれば「もっと面白い最終回をぼくが描けるから、良かった」そうです。その発言を聞いた時は「なんて人だ!」と衝撃でしたし、「これよりまだ面白い物をこの先読めるのか!」と単純にワクワクしてしまいました。
――原作の終盤という点に関して、『STAMPEDE』にはグランドラインの最終地点「ラフテル」の永久指針(エターナルポース)が、「海賊王のお宝」として登場しました。原作とも密接にリンクするアイテムだと思うのですが…。
【内藤】そうですね。「ラフテルの永久指針なんていう物が、そもそも存在していいのか?」という部分は、スタッフで何度も話し合いましたし尾田さんにも再三確認をして進めました。あの永久指針は、この映画だけの突拍子もないお宝ではないんです。その証拠に永久指針には、誰も見た事もない「LaughTale(ラフテル)」というつづりが刻まれていました。ぼくら担当編集は、このつづりや意味するところを前々から聞かされていました。つまり尾田さんが作る物語のベースは、20年前からずっと一切ブレていないんです。
それだけ重要で、かつ原作でもまだ出していなかった情報を『STAMPEDE』で初めて出す事にした。ラフテルの永久指針が存在して、それが「海賊王のお宝」として出てくるというストーリーの中で、ならば今ここで明かすべきだと尾田さんが判断したわけです。このタイミングでOKしたという事は、原作も終盤に差し掛かっているなかで、ひとつの『ONE PIECE』という作品として包み隠さずやろう!という尾田さんの気合いの表れじゃないかと思っています。
■ワノ国編は『ONE PIECE』の最終回に深く関わるストーリー
――そういう情報を、原作ではなく『STAMPEDE』で出す事をOKしたというのは、20年の中で尾田先生の映画に対する見方が変わってきた部分もあるのでしょうか?
【内藤】多くの読者にとっては、漫画の『ONE PIECE』もアニメの『ONE PIECE』も、同じ『ONE PIECE』です。無論、アニメの原画を尾田さんが描くわけではないですが、そうした認識に対して完璧に戦いきりたいという並々ならぬ気概があると思っています。
『ONE PIECE』みたいな作品は、完璧主義者でなければ絶対に作れません。普段の打ち合わせも、来週描く話が過去に描いた物語と齟齬(そご)が出ないかという確認にかなりの時間をかけます。この巨大な世界は毎週毎週、相当緻密に描いているんです。この常人ならざる『ONE PIECE』への向き合い方……あまりにも大勢の人が『ONE PIECE』を読んでいて、楽しみに待ってくれているという甚大なプレッシャーへの立ち向き合い方が、たとえ原作であれ映画であれ、「ラフテル」のつづりに設定と違うものを記さなかったという貫き方だと思っています。
――原作との関連という点では、『STAMPEDE』の敵役・バレットが、元ロジャー海賊団の船員だったという設定も出てきますね。
【内藤】はい。つい最近も『週刊少年ジャンプ』でロジャーの懸賞金が明かされて話題になりましたが、やはりロジャーは「大海賊時代を作った男」として、誰もが気になっている存在だと思います。第1巻の最初の1ページに登場して、一言で時代をつくり変えてしまった男。ラフテルにたどり着き、ONE PIECEの正体を知る男。その始まりのキャラクターについての話を、今この「ワノ国編」というタイミングで明かしていっている事には当然大きな意味があるでしょう。尾田さんの表現を借りて一言で言うなら、「ワノ国編は『ONE PIECE』の最終回に深く関わるストーリーである」という事です。
もう一段突っ込んで言いましょう。「ワノ国編で描かれる回想は、このゴールド・ロジャーの伝説の冒険を描く事になる」と。それがどうワノ国や光月おでん、そしてルフィへと絡んでくるかはもちろん伏せますが、このワノ国編は『ONE PIECE』の根本を知るうえで絶対に読んでおくべき最重要なシリーズだと断言できます。このシリーズは「ONE PIECEとは何なのか?」という最大の核心につながっていくでしょう。
――大変衝撃的な内容のお話ですが、これ記事にしてしまって大丈夫でしょうか…。
【内藤】尾田さんには了承を得ています。なぜここまで言ってしまうかといえば、そんな今だからこそ皆さんに『ONE PIECE』を読んでほしいからなんです。誤解を恐れずに言うなら、途中で読むのをやめちゃった人には、そこを飛ばしてでも今の「ワノ国編」から読んでほしい。しばらく『ONE PIECE』をお休みしていた人でも良い機会で、ワノ国編はコミックス91巻から読み始められる作りになっています。
91巻はルフィが昔の日本のような場所に座礁して、一人で冒険をはじめる所からスタートします。この感覚も、実はすごく久しぶりなんですよ。今では“麦わらの一味”の仲間がいっぱいいますけど、最初はルフィが一人で小舟に乗って、大海原へ漕ぎ出す所から『ONE PIECE』は始まりますよね。その「一人での冒険感」が91巻の冒頭にはあって、懐かしいと同時にきっと新鮮な気持ちで読めるはずです。
そしてルフィは「お玉」という少女に出会うのですが、このお玉はなんとエースと知り合いで、つまりルフィとも因縁がある事になる。ここから「ワノ国編」の物語が動き出す…と考えれば、91巻から(現時点での最新刊の)94巻まで、たった4冊で最新の『ONE PIECE』に追いつけるんですよ! もちろん担当編集としては1巻から全部読んでほしいのが大前提ですが、それが難しいなら91〜94巻だけでも絶対に今読んでほしい。
■超重要な情報は漫画の中で知ってほしい
――そこまで内藤さんが「今」にこだわるのはなぜでしょうか?
【内藤】ひとつは、重要な情報をSNSを通じて不意に知ってしまうのを避けるためです。20年前ならともかく、今はSNSの時代ですから、どうしたって目に入ってきてしまう情報というのがある。この先『ONE PIECE』に出てくる超面白い展開や超重要な情報は、とにかく漫画の中で知ってほしいんです。だって自分が読者だったら、「〇〇〇が死んだ!」とか「ワンピースとは□□□だった!」みたいな事を、SNSで知ってしまったら絶対ガッカリするじゃないですか。そういう形ではなくて、漫画で読んで純度100パーセントの衝撃を皆さんに感じてほしいんです。
――完結してから一気に読んでももちろん面白いですが、一方で、リアルタイムで毎週・毎巻ハラハラしながら読む面白さもありますよね。
【内藤】はい。このクオリティと密度の週刊連載を22年間も続けている事自体がまずとんでもない事です。週ごとに絶対面白い物が載っていて翌週も楽しみなエンターテインメントって、世の中にそう多くないですよね。しかもそれを、尾田栄一郎という人間がほぼ一人で作っている。大げさな言い方じゃなく、尾田さんは本当に家にも帰らず、毎日3時間足らずの睡眠で暗い仕事場にこもり、今も『ONE PIECE』を描き続けている。編集者として言うなら、その努力はあらゆる漫画家さんの中でも尋常ではないレベルです。そういう分厚い物を20年以上積み重ねてきた結果が、累計4億5000万部という数字なんです。次の95巻で、それが4億6000万部に更新されます。もはや数字がでかすぎて誤差みたいなレベルに見えますけど、よくよく考えたら1000万部増えるだけでもとんでもない事で。
単巻で見るなら、未だ新刊1冊につき300万部以上も発行されていますし、その初版300万部以上という数字は10年続いています。オリコンさん調べでは11年連続で年間売上1位を継続中ですが、コミックスの統計を取り始めたのが2008年からだそうですので、実際はもっと長い期間のはずです。浮き沈みもあるであろうエンタメ界でそのくらい途方もないムーブメントが、これだけ長い間続いているのは奇跡的な事だと言って良いでしょうし、その奇跡にオンタイムで立ち会えるのはすごくラッキーじゃないですか。今のこの状況が未来永劫続くわけではない。当たり前ですが『ONE PIECE』だって、いつかは終わります。だからこそ「今」皆さんに、その波に乗ってほしいんです。
■間違いなく、ここから怒涛の5年間に
――まさに先日、YouTuberのフィッシャーズさんの動画で、『ONE PIECE』があと5年で終わる!? という尾田さんの発言がニュースになりましたが…。
【内藤】ぼくが尾田さんから今後の構想を聞いた限りでは「これ5年で終わるか?」と正直、思わなくもない。でも尾田さんが5年と言い切ったなら、きっちり5年で終わらせるとも思うんです。今の「ワノ国編」の怒涛の展開を見る限り、確かに5年で終わらせる事ができるテンポ感に実際なってきています。そう言ったという事は、尾田さんが考える「こんな島にも行きたい」とか、作中に張られてきた様々な伏線とか、読者の皆さんが知ってるだけでも山ほどあるのに、そういう全部がここからの5年間ものすごい密度で描かれていくという事です。
その一環として11/17(日)まで、コミックス91〜94巻を持って写真をSNSに投稿すると複製原画が当たるキャンペーンもやっています。ロジャーの懸賞金が発表された「第957話」の複製原画17ページが丸ごと手に入る超ビッグチャンスなので、ぜひ皆さんご応募ください!
とつぜんキャンペーンの告知をしてしまいましたが、担当編集として宣伝して売上をという意思はもちろんあります。しかしです。最初の尾田さんの言葉を借りれば「『STAMPEDE』よりもっと面白い終盤」が、いよいよこの先やって来ます。ある一定の年齢の方は覚えているでしょうが、数年前、物語が「頂上戦争編」に差し掛かった時、みんなが『ONE PIECE』の話をしている時期がありました。学生もサラリーマンもみんな、エースの、そしてルフィの話をしていた。尾田さんは一昨年のイベントで、「あの頂上戦争編がかわいく見えてくる」ほどのストーリーがこの先待っていると言っています。その言葉通りの5年間に間違いなくなるでしょう。
――そう考えると『STAMPEDE』の大ヒットは、『ONE PIECE』という作品に今改めて火を付けたという意味で、とてもジャストなタイミングだったと言えるでしょうか。
【内藤】その通りです。8月は『STAMPEDE』の公開に合わせてキャンペーンもいろいろありましたから、テレビをつければCMにルフィが出てくる、街を歩いてればポスターにルフィがいる。そんなふうに毎日ルフィを目にするような状況でしたので、そこから『ONE PIECE』に戻ってきた人もいたでしょうし、1巻から読み始めたくなった人もいると思います。先ほども言いましたが、それが大変なら91巻から入り直してもらってもいい。
その1つ前の90巻では「レヴェリー(世界会議)」といって、ビビやDr.くれは、ロブ・ルッチ、サボなど、歴代の人気キャラクターが『STAMPEDE』よろしく大集結する展開もあります。「ビビやくれはなら知ってる! 懐かしい!」という方や、「『STAMPEDE』だけじゃ物足りない! サボやルッチの活躍をもっと見たい!」という方には、そこから入るのもオススメです。
いずれにしても『ONE PIECE』は間違いなく、ここから怒涛です。その衝撃をリアルタイムで、今こそ日本中、世界中の人々と一緒に体験したいと、ワノ国編が佳境に迫る今、思っております。
■作品情報
『ONE PIECE』
原作:尾田栄一郎
週刊「少年ジャンプ」(集英社)にて連載中
コミックス94巻まで発売中、最新95巻は12月28日発売
劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』
2019年8月9日公開
原作・監修:尾田栄一郎 監督:大塚隆史
(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
■SNSキャンペーン
ツイッター、インスタグラム、Youtubeのいずれかのメディアにハッシュタグ 「#ワノ国を読もう」をつけて91巻〜94巻の写真をセットでアップした人の中からワノ国編好調を記念して抽選で10名に957話の1話まるまるの複製原画をプレゼント。11月17日まで。
■『STAMPEDE』で初めて「ラフテル」を出した意味
――劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』が全世界で興収100億円に迫る大ヒットとなりましたが、内藤さんが思うヒットの要因は何でしょうか?
【内藤】圧倒的にいい映画だった。何を置いても、やっぱりそれに尽きます。「ウィーアー!」や「memories」など歴代の『ONE PIECE』を彩った名曲が流れるという20周年映画ならではの演出も随所にあったし、ウソップがすごくカッコよかった。ウソップの姿には『ONE PIECE』の20年が凝縮されていたように思うんです。『ONE PIECE』をずっと追いかけてきてくれた皆さんも、きっといろいろな思い出を重ねながら観てくれたのではないでしょうか。
――国内だけで55億円を超えていますが、海外でも40億円超えのヒットを記録しています。
【内藤】はい。『ONE PIECE』の認知度が世界的に上がっているのを肌で感じています。例えばフランスの公開初日には、劇場に集まった大勢のファンが、日本語で「ウィーアー!」を合唱してくれていたり。中国でも、見た事のない盛り上がり方をしていました。20年やってきたからこそ「麦わら帽子の赤いやつがいる」という存在感が全世界に届いてきた、そういう実感がすごくありました。
制作側もそうで、『STAMPEDE』のラフ映像をみんなで初めて見た日、スタッフ全員確かな手応えを共有できて、ぼくら担当編集なんて感動と安堵で号泣してしまったのを覚えています。ただそんな中で尾田さんだけは一人冷静で。もちろん物凄く良い出来だと言っていましたが、あの試写の時、尾田さんは「現時点で最高だね。僕がこの先描く原作の終盤は、まだまだこんなもんじゃないから」と言ったんです。
『STAMPEDE』を見た人の感想には「最終回っぽい」というのも結構多かったのですが、尾田さんに言わせれば「もっと面白い最終回をぼくが描けるから、良かった」そうです。その発言を聞いた時は「なんて人だ!」と衝撃でしたし、「これよりまだ面白い物をこの先読めるのか!」と単純にワクワクしてしまいました。
――原作の終盤という点に関して、『STAMPEDE』にはグランドラインの最終地点「ラフテル」の永久指針(エターナルポース)が、「海賊王のお宝」として登場しました。原作とも密接にリンクするアイテムだと思うのですが…。
【内藤】そうですね。「ラフテルの永久指針なんていう物が、そもそも存在していいのか?」という部分は、スタッフで何度も話し合いましたし尾田さんにも再三確認をして進めました。あの永久指針は、この映画だけの突拍子もないお宝ではないんです。その証拠に永久指針には、誰も見た事もない「LaughTale(ラフテル)」というつづりが刻まれていました。ぼくら担当編集は、このつづりや意味するところを前々から聞かされていました。つまり尾田さんが作る物語のベースは、20年前からずっと一切ブレていないんです。
それだけ重要で、かつ原作でもまだ出していなかった情報を『STAMPEDE』で初めて出す事にした。ラフテルの永久指針が存在して、それが「海賊王のお宝」として出てくるというストーリーの中で、ならば今ここで明かすべきだと尾田さんが判断したわけです。このタイミングでOKしたという事は、原作も終盤に差し掛かっているなかで、ひとつの『ONE PIECE』という作品として包み隠さずやろう!という尾田さんの気合いの表れじゃないかと思っています。
■ワノ国編は『ONE PIECE』の最終回に深く関わるストーリー
――そういう情報を、原作ではなく『STAMPEDE』で出す事をOKしたというのは、20年の中で尾田先生の映画に対する見方が変わってきた部分もあるのでしょうか?
【内藤】多くの読者にとっては、漫画の『ONE PIECE』もアニメの『ONE PIECE』も、同じ『ONE PIECE』です。無論、アニメの原画を尾田さんが描くわけではないですが、そうした認識に対して完璧に戦いきりたいという並々ならぬ気概があると思っています。
『ONE PIECE』みたいな作品は、完璧主義者でなければ絶対に作れません。普段の打ち合わせも、来週描く話が過去に描いた物語と齟齬(そご)が出ないかという確認にかなりの時間をかけます。この巨大な世界は毎週毎週、相当緻密に描いているんです。この常人ならざる『ONE PIECE』への向き合い方……あまりにも大勢の人が『ONE PIECE』を読んでいて、楽しみに待ってくれているという甚大なプレッシャーへの立ち向き合い方が、たとえ原作であれ映画であれ、「ラフテル」のつづりに設定と違うものを記さなかったという貫き方だと思っています。
――原作との関連という点では、『STAMPEDE』の敵役・バレットが、元ロジャー海賊団の船員だったという設定も出てきますね。
【内藤】はい。つい最近も『週刊少年ジャンプ』でロジャーの懸賞金が明かされて話題になりましたが、やはりロジャーは「大海賊時代を作った男」として、誰もが気になっている存在だと思います。第1巻の最初の1ページに登場して、一言で時代をつくり変えてしまった男。ラフテルにたどり着き、ONE PIECEの正体を知る男。その始まりのキャラクターについての話を、今この「ワノ国編」というタイミングで明かしていっている事には当然大きな意味があるでしょう。尾田さんの表現を借りて一言で言うなら、「ワノ国編は『ONE PIECE』の最終回に深く関わるストーリーである」という事です。
もう一段突っ込んで言いましょう。「ワノ国編で描かれる回想は、このゴールド・ロジャーの伝説の冒険を描く事になる」と。それがどうワノ国や光月おでん、そしてルフィへと絡んでくるかはもちろん伏せますが、このワノ国編は『ONE PIECE』の根本を知るうえで絶対に読んでおくべき最重要なシリーズだと断言できます。このシリーズは「ONE PIECEとは何なのか?」という最大の核心につながっていくでしょう。
――大変衝撃的な内容のお話ですが、これ記事にしてしまって大丈夫でしょうか…。
【内藤】尾田さんには了承を得ています。なぜここまで言ってしまうかといえば、そんな今だからこそ皆さんに『ONE PIECE』を読んでほしいからなんです。誤解を恐れずに言うなら、途中で読むのをやめちゃった人には、そこを飛ばしてでも今の「ワノ国編」から読んでほしい。しばらく『ONE PIECE』をお休みしていた人でも良い機会で、ワノ国編はコミックス91巻から読み始められる作りになっています。
91巻はルフィが昔の日本のような場所に座礁して、一人で冒険をはじめる所からスタートします。この感覚も、実はすごく久しぶりなんですよ。今では“麦わらの一味”の仲間がいっぱいいますけど、最初はルフィが一人で小舟に乗って、大海原へ漕ぎ出す所から『ONE PIECE』は始まりますよね。その「一人での冒険感」が91巻の冒頭にはあって、懐かしいと同時にきっと新鮮な気持ちで読めるはずです。
そしてルフィは「お玉」という少女に出会うのですが、このお玉はなんとエースと知り合いで、つまりルフィとも因縁がある事になる。ここから「ワノ国編」の物語が動き出す…と考えれば、91巻から(現時点での最新刊の)94巻まで、たった4冊で最新の『ONE PIECE』に追いつけるんですよ! もちろん担当編集としては1巻から全部読んでほしいのが大前提ですが、それが難しいなら91〜94巻だけでも絶対に今読んでほしい。
■超重要な情報は漫画の中で知ってほしい
――そこまで内藤さんが「今」にこだわるのはなぜでしょうか?
【内藤】ひとつは、重要な情報をSNSを通じて不意に知ってしまうのを避けるためです。20年前ならともかく、今はSNSの時代ですから、どうしたって目に入ってきてしまう情報というのがある。この先『ONE PIECE』に出てくる超面白い展開や超重要な情報は、とにかく漫画の中で知ってほしいんです。だって自分が読者だったら、「〇〇〇が死んだ!」とか「ワンピースとは□□□だった!」みたいな事を、SNSで知ってしまったら絶対ガッカリするじゃないですか。そういう形ではなくて、漫画で読んで純度100パーセントの衝撃を皆さんに感じてほしいんです。
――完結してから一気に読んでももちろん面白いですが、一方で、リアルタイムで毎週・毎巻ハラハラしながら読む面白さもありますよね。
【内藤】はい。このクオリティと密度の週刊連載を22年間も続けている事自体がまずとんでもない事です。週ごとに絶対面白い物が載っていて翌週も楽しみなエンターテインメントって、世の中にそう多くないですよね。しかもそれを、尾田栄一郎という人間がほぼ一人で作っている。大げさな言い方じゃなく、尾田さんは本当に家にも帰らず、毎日3時間足らずの睡眠で暗い仕事場にこもり、今も『ONE PIECE』を描き続けている。編集者として言うなら、その努力はあらゆる漫画家さんの中でも尋常ではないレベルです。そういう分厚い物を20年以上積み重ねてきた結果が、累計4億5000万部という数字なんです。次の95巻で、それが4億6000万部に更新されます。もはや数字がでかすぎて誤差みたいなレベルに見えますけど、よくよく考えたら1000万部増えるだけでもとんでもない事で。
単巻で見るなら、未だ新刊1冊につき300万部以上も発行されていますし、その初版300万部以上という数字は10年続いています。オリコンさん調べでは11年連続で年間売上1位を継続中ですが、コミックスの統計を取り始めたのが2008年からだそうですので、実際はもっと長い期間のはずです。浮き沈みもあるであろうエンタメ界でそのくらい途方もないムーブメントが、これだけ長い間続いているのは奇跡的な事だと言って良いでしょうし、その奇跡にオンタイムで立ち会えるのはすごくラッキーじゃないですか。今のこの状況が未来永劫続くわけではない。当たり前ですが『ONE PIECE』だって、いつかは終わります。だからこそ「今」皆さんに、その波に乗ってほしいんです。
■間違いなく、ここから怒涛の5年間に
――まさに先日、YouTuberのフィッシャーズさんの動画で、『ONE PIECE』があと5年で終わる!? という尾田さんの発言がニュースになりましたが…。
【内藤】ぼくが尾田さんから今後の構想を聞いた限りでは「これ5年で終わるか?」と正直、思わなくもない。でも尾田さんが5年と言い切ったなら、きっちり5年で終わらせるとも思うんです。今の「ワノ国編」の怒涛の展開を見る限り、確かに5年で終わらせる事ができるテンポ感に実際なってきています。そう言ったという事は、尾田さんが考える「こんな島にも行きたい」とか、作中に張られてきた様々な伏線とか、読者の皆さんが知ってるだけでも山ほどあるのに、そういう全部がここからの5年間ものすごい密度で描かれていくという事です。
その一環として11/17(日)まで、コミックス91〜94巻を持って写真をSNSに投稿すると複製原画が当たるキャンペーンもやっています。ロジャーの懸賞金が発表された「第957話」の複製原画17ページが丸ごと手に入る超ビッグチャンスなので、ぜひ皆さんご応募ください!
とつぜんキャンペーンの告知をしてしまいましたが、担当編集として宣伝して売上をという意思はもちろんあります。しかしです。最初の尾田さんの言葉を借りれば「『STAMPEDE』よりもっと面白い終盤」が、いよいよこの先やって来ます。ある一定の年齢の方は覚えているでしょうが、数年前、物語が「頂上戦争編」に差し掛かった時、みんなが『ONE PIECE』の話をしている時期がありました。学生もサラリーマンもみんな、エースの、そしてルフィの話をしていた。尾田さんは一昨年のイベントで、「あの頂上戦争編がかわいく見えてくる」ほどのストーリーがこの先待っていると言っています。その言葉通りの5年間に間違いなくなるでしょう。
――そう考えると『STAMPEDE』の大ヒットは、『ONE PIECE』という作品に今改めて火を付けたという意味で、とてもジャストなタイミングだったと言えるでしょうか。
【内藤】その通りです。8月は『STAMPEDE』の公開に合わせてキャンペーンもいろいろありましたから、テレビをつければCMにルフィが出てくる、街を歩いてればポスターにルフィがいる。そんなふうに毎日ルフィを目にするような状況でしたので、そこから『ONE PIECE』に戻ってきた人もいたでしょうし、1巻から読み始めたくなった人もいると思います。先ほども言いましたが、それが大変なら91巻から入り直してもらってもいい。
その1つ前の90巻では「レヴェリー(世界会議)」といって、ビビやDr.くれは、ロブ・ルッチ、サボなど、歴代の人気キャラクターが『STAMPEDE』よろしく大集結する展開もあります。「ビビやくれはなら知ってる! 懐かしい!」という方や、「『STAMPEDE』だけじゃ物足りない! サボやルッチの活躍をもっと見たい!」という方には、そこから入るのもオススメです。
いずれにしても『ONE PIECE』は間違いなく、ここから怒涛です。その衝撃をリアルタイムで、今こそ日本中、世界中の人々と一緒に体験したいと、ワノ国編が佳境に迫る今、思っております。
■作品情報
『ONE PIECE』
原作:尾田栄一郎
週刊「少年ジャンプ」(集英社)にて連載中
コミックス94巻まで発売中、最新95巻は12月28日発売
劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』
2019年8月9日公開
原作・監修:尾田栄一郎 監督:大塚隆史
(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
■SNSキャンペーン
ツイッター、インスタグラム、Youtubeのいずれかのメディアにハッシュタグ 「#ワノ国を読もう」をつけて91巻〜94巻の写真をセットでアップした人の中からワノ国編好調を記念して抽選で10名に957話の1話まるまるの複製原画をプレゼント。11月17日まで。
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2019/11/14