昨年12月に刊行された韓国の文芸本『82年生まれ、キム・ジヨン』は、韓国で社会現象を巻き起こし、K-POPのアイドルが次々にコメントを発信するなど話題を集めた。日本で翻訳書を刊行した筑摩書房は、こうした韓国での盛り上がりをうまく利用し、幅広い層へのアプローチに成功してヒットにつなげている。
筑摩書房が昨年12月に刊行したチョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳)が、翻訳文芸書としては異例の大反響を呼んでいる。刊行後、たちまち完売店が続出したことから2日で重版が決定。さらに4日目にして3刷の重版が決定し、1ヶ月後には5刷累計発行部数5万部を突破した。その後も毎週、約2500?5200部を売り上げ、発売4ヶ月で13万部を超すヒット。順調に売り上げを伸ばしている。
「キム・ジヨン」という韓国で82年生まれに最も多い女性の名前をタイトルにしたこの本は、ごく一般的な女性の半生を通じ、韓国の女性なら誰もが思い当たるような男女の不平等や苦悩を描いた小説。韓国では2015年に刊行され、少女時代のスヨン、BTSのRM、Red Velvetのアイリーンなど、K-POPの有名人たちが次々とコメントを発信。社会現象とも言える広がりを見せ、107万部を突破する大ヒットとなった。日本での書籍化に至った経緯を筑摩書房編集局の井口かおり氏はこう語る。
「2011年から『新しい韓国の文学』というシリーズを刊行しているクオンをはじめ、晶文社、クレイン等、韓国文芸に力を注いでいる出版社が増え、近年、日本では韓国文学が静かな盛り上がりを見せています。そんななか、当社から出ている本が韓国で翻訳出版されることは多いのですが、逆は少なかった。その頃韓国でフェミニズムが盛り上がっていて、翻訳家の斎藤真理子さんに日本でそういう本を刊行できないかご相談して紹介されたのがこの本です」
その時点で、韓国ではベストセラーになっていたが、それでも「日本ではどのくらい売れるのか予想がつかなかった」そうだ。そのため、初版部数は慎重に設定。同時に、営業部では可能性を探るため、どのくらいの反応があるか、まずは本書の噂を知っているK-POPファンに向けて、刊行1ヶ月前にツイッターで告知を開始した。
異例だったのはそこからの展開だった。発売後すぐに読者が続々、感想をツイッターに上げたことから話題となり、売れ行きが加速していったのだ。
「読者が読んだ本について発信してくれることは多いですが、この本はそれが顕著でした。何か話したくなる、人に勧めたくなる本ですね」(井口氏)
この反応を受けて、営業部もさらに販促活動を強化した。
「K-POPファンなどの韓国サブカルチャー好きの人だけでなく、文芸好きだけでもなく、さまざまな人が興味を持ったり、共感したり、刺さるものがあると確信が持てたので、読者層にこだわらず、幅広い層に訴えかけられるよう、営業促進やプロモーションを計画し直しました」(営業部 販売三課 課長/尾竹伸氏)。
「この本についていろいろな人と話したい」と言うコメントを多数目にしたことから、刊行2ヶ月後に著者の来日イベントを企画、来場した各世代100人の声を集めて特設サイトに掲載した。さらに多くのメディアに取り上げられたタイミングで、普段、新聞・雑誌などを読まない人にも訴求するべくJR車内にも広告を展開。また、目にする機会を増やすことを重視し、より手に取りやすく書店で目立つよう帯のデザインを随時変更しながら展開書店数を広げ、重版を繰り返していった。
さらに本作は、日本でも人気の俳優チョン・ユミ&コン・ユの共演で映画化が決定しており、現在ベストセラーになっている台湾に続き、アメリカ、ベトナム、イギリス、フランス等17ヶ国・地域で翻訳も予定されている。
「世界各国でこの本に関するニュースが生まれると思いますので、その反応を日本に持ち込むなど、また新たなプロモーションを展開していきます」(尾竹氏)
フェミニズムのテーマでも注目されている本作。文芸の枠を超え、日本でも社会現象となるか。翻訳文芸本の異例の大ヒットに注目したい。
(文/河上いつ子)
※部数はすべて推定累積売上部数
筑摩書房が昨年12月に刊行したチョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳)が、翻訳文芸書としては異例の大反響を呼んでいる。刊行後、たちまち完売店が続出したことから2日で重版が決定。さらに4日目にして3刷の重版が決定し、1ヶ月後には5刷累計発行部数5万部を突破した。その後も毎週、約2500?5200部を売り上げ、発売4ヶ月で13万部を超すヒット。順調に売り上げを伸ばしている。
「キム・ジヨン」という韓国で82年生まれに最も多い女性の名前をタイトルにしたこの本は、ごく一般的な女性の半生を通じ、韓国の女性なら誰もが思い当たるような男女の不平等や苦悩を描いた小説。韓国では2015年に刊行され、少女時代のスヨン、BTSのRM、Red Velvetのアイリーンなど、K-POPの有名人たちが次々とコメントを発信。社会現象とも言える広がりを見せ、107万部を突破する大ヒットとなった。日本での書籍化に至った経緯を筑摩書房編集局の井口かおり氏はこう語る。
「2011年から『新しい韓国の文学』というシリーズを刊行しているクオンをはじめ、晶文社、クレイン等、韓国文芸に力を注いでいる出版社が増え、近年、日本では韓国文学が静かな盛り上がりを見せています。そんななか、当社から出ている本が韓国で翻訳出版されることは多いのですが、逆は少なかった。その頃韓国でフェミニズムが盛り上がっていて、翻訳家の斎藤真理子さんに日本でそういう本を刊行できないかご相談して紹介されたのがこの本です」
その時点で、韓国ではベストセラーになっていたが、それでも「日本ではどのくらい売れるのか予想がつかなかった」そうだ。そのため、初版部数は慎重に設定。同時に、営業部では可能性を探るため、どのくらいの反応があるか、まずは本書の噂を知っているK-POPファンに向けて、刊行1ヶ月前にツイッターで告知を開始した。
異例だったのはそこからの展開だった。発売後すぐに読者が続々、感想をツイッターに上げたことから話題となり、売れ行きが加速していったのだ。
「読者が読んだ本について発信してくれることは多いですが、この本はそれが顕著でした。何か話したくなる、人に勧めたくなる本ですね」(井口氏)
この反応を受けて、営業部もさらに販促活動を強化した。
「K-POPファンなどの韓国サブカルチャー好きの人だけでなく、文芸好きだけでもなく、さまざまな人が興味を持ったり、共感したり、刺さるものがあると確信が持てたので、読者層にこだわらず、幅広い層に訴えかけられるよう、営業促進やプロモーションを計画し直しました」(営業部 販売三課 課長/尾竹伸氏)。
「この本についていろいろな人と話したい」と言うコメントを多数目にしたことから、刊行2ヶ月後に著者の来日イベントを企画、来場した各世代100人の声を集めて特設サイトに掲載した。さらに多くのメディアに取り上げられたタイミングで、普段、新聞・雑誌などを読まない人にも訴求するべくJR車内にも広告を展開。また、目にする機会を増やすことを重視し、より手に取りやすく書店で目立つよう帯のデザインを随時変更しながら展開書店数を広げ、重版を繰り返していった。
さらに本作は、日本でも人気の俳優チョン・ユミ&コン・ユの共演で映画化が決定しており、現在ベストセラーになっている台湾に続き、アメリカ、ベトナム、イギリス、フランス等17ヶ国・地域で翻訳も予定されている。
「世界各国でこの本に関するニュースが生まれると思いますので、その反応を日本に持ち込むなど、また新たなプロモーションを展開していきます」(尾竹氏)
フェミニズムのテーマでも注目されている本作。文芸の枠を超え、日本でも社会現象となるか。翻訳文芸本の異例の大ヒットに注目したい。
(文/河上いつ子)
※部数はすべて推定累積売上部数
コメントする・見る
2019/07/13