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上半期邦画を盛り上げた『翔んで埼玉』ヒット理由を分析 “くだらない”が褒め言葉になる企画会議

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第10回 若松央樹プロデューサー&田口和也宣伝プロデューサー
 2019年上半期の邦画実写映画で、大きなトピックスとなったのが、『翔んで埼玉』の大ヒットではないだろうか。改めてヒット理由をフジテレビの若松央樹プロデューサーと、配給元である東映の田口和也宣伝プロデューサーに聞いた。

(左から)若松央樹プロデューサー、田口和也宣伝プロデューサー (C)ORICON NewS inc.

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■全体興収の約4分の1が埼玉県!

 2月22日に全国319スクリーンで公開を迎えると、オープニング興業で3億円を超える数字を叩き出し首位を獲得。その後も、数字を伸ばし続けロングラン上映されると、累計興収は37.5億円(6/30現在)を超える大ヒットとなった。特に作品の“ディスり”の対象となった埼玉県では、興行全体の約4分の1という数字を記録。「MOVIXさいたま」では1館だけで1億4000万円(6/30現在)という売り上げとなった。まさに驚きの数字だ。田口氏は「一番は作品の魅力」と強調したが、それでも「ご当地映画にならないように、全国に広めようと宣伝はしていましたが、結果的に埼玉県の方に支持していただけたことが、成功につながったと思います」と感謝を述べる。

 魔夜峰央の原作は、ある意味、グサグサくるようなシチュエーションで埼玉県をディスっているが、若松氏は「でも決して悪意はない。実写化するときも、原作のようにしっかり愛を持ちつつ、日和ることなく徹底的に突き抜けよう、遊べるところは遊び倒そう」という強い思いで臨んだという。「遊べるところは」の匙加減についても「いろいろ取材したり、埼玉県の人と飲んだりして、徹底的にリサーチしました」と若松氏は語る。
 
■キーワードは自虐

 いまの時代、どこに地雷があるかわからず、言葉ひとつ間違えれば大炎上してしまう危険性もある。田口氏も「非常にバランスが難しい。広告の文言ひとつでも言葉選びには時間を要しました。“ディスる”ということが差別的な意味や、ただの悪口になってしまったらダメ。どこまで笑ってもらえるか、自虐に持っていけるかがカギでした」とポイントを述べる。自虐という意味では「実写化決定の段階からずっと謝罪していました。映画化してごめんなさい、パンフレットにしてごめんなさいという感じに……」と笑う。確かに二階堂ふみとブラザートムが埼玉県庁に謝罪に行ったニュースは大きな反響を呼んだ。
 
 もうひとつの宣伝の特徴は、SNSやウェブでの展開だ。「一般的な広告はもちろんですが、SNSには結構注力しました。公式ツイッターでは、単に情報を発信するだけではなく、自虐を絡め、製作サイドが楽しんでしまおうというスタンスをとりました。その際も、トライしたことに対しての反応はしっかりとチェックし『ここまでなら大丈夫かな』という感じで少しずつ“ディスり”の幅を広げていきました」(田口氏)。

 丁寧な宣伝活動を展開するなか、ひとつターニングポイントとして田口氏があげたのが、2018年11月14日の「埼玉県民の日」に合わせたプロモーションだという。「その日に合わせてキャラクタービジュアルを一気に解禁し、SNSもスタートさせました。2019年1月28日に東京ドームシティホールで行われた完成披露試写会では、“埼玉スーパーシート”と呼ばれるゴザと藁が敷かれたパイプ椅子を用意し、招待するための募集告知をしました。ここでもかなり良い反応を見せてくれたので、このやり方で合っているんだという手ごたえがあったんです」(田口氏)。

■時事ネタと融合したことにより、フジテレビ映画でも他局で積極的に取り上げるという現象が!

 本作は、埼玉県と千葉県の対立構図を煽るなど“地域性”というキーワードも作品が大きく化けた要因になっていると若松氏は指摘する。「埼玉県と千葉県という関東の一地域の話ではありますが、県名を変えれば、全国どこにでもある話という普遍性も持っている題材なんです。最初は埼玉県で火がつきましたが、それが全国放送で話題になると、徐々に自分たちの地域でも身近に感じるようになってもらえ、大きく広がっていきました」。

 もうひとつ、社会ネタとリンクしたことも大きいという。若松氏は「これは狙っていたわけではないのですが、本作が地方再生として、起爆剤的に取り上げられるようになっていったんです。町おこしのために、自虐的に“おらが町”をアピールするやり方ってあるじゃないですか。地方は今後どうしていくのだろうかという時事ネタとして報道番組で取り上げてもらえたのも大きかったです」と語る。

 本作は、フジテレビが製作幹事を務める映画である。決まりごとはないが、基本的にテレビ局が製作幹事を務める映画の場合、原則として自局でのプロモーションがメインとなる。しかし本作はNHKをはじめ、TBSの情報番組『ビビット』など、他局でも積極的に作品が取り上げられた。

■“くだらない”の魅力

 田口氏は「『翔んで埼玉』が他の作品と圧倒的に違うのが、普通ではないテイスト。ある意味でなにをやっても許される作風だったので、タイアップも広告も“くだらない”をテーマに一ひねり、二ひねりしました」と特異性を述べる。特に田口氏がお気に入りの企画が、劇中の「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」というセリフにちなんだ“そこらへんの草”味のポップコーン。「毎週のように宣伝チームで打ち合わせをして、ネタ出しをしていたのですが、“そこらへんの草味のポップコーン”はみなさん面白がってくれました」。

 若松氏が「くだらない」と爆笑したのが、大阪の通天閣の上に「“さ”の旗」を立てた企画だという。田口氏は「GACKTさんも喜んでくれていたのですが、最初は通天閣に垂れ幕をかけたかったのですが、さすがに無理だということで、せめて旗ならとお願いしたんです。そうしたら快諾いただいて……」と懐かしそうに振り返る。

 “くだらない”が褒め言葉になる企画会議。次々に“くだらない”企画が湧き出るほど、ノリにノッたチーム『翔んで埼玉』。その“くだらなさ”は視聴者側にも伝わり、映画シーンにおいて大きな盛り上がりを見せた。若松氏は「“茶番劇”という言葉が一番ハマっていて、この映画を言い表すのにわかりやすい言葉でした。それを多くの人が面白がってくれたのが良かったです」。

 ちょっとした失言で炎上してしまうギスギスした世の中と言われている昨今だが、『翔んで埼玉』を面白がって盛り上がることができるエンタメシーンには、まだまだ大きな希望があるといえるだろう。ちなみに、同作のBlu-ray&DVDは9月11日(水)にリリースされる。発売はフジテレビジョン。販売は東映 東映ビデオ。まだ観てない人はこの機会にぜひ。(取材・文・撮影:磯部正和)

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  • (左から)若松央樹プロデューサー、田口和也宣伝プロデューサー (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『翔んで埼玉』のブルーレイ&DVDは9月11日(水)にフジテレビジョン発売・東映 東映ビデオ販売でリリースされる(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
  • 映画『翔んで埼玉』のメインカット(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
  • 映画『翔んで埼玉』より場面カット(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
  • 映画『翔んで埼玉』より場面カット(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
  • 映画『翔んで埼玉』より場面カット(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会
  • 映画『翔んで埼玉』より場面カット(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

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