『りぼん』で連載中の少女漫画『さよならミニスカート』が今、異例の人気を集めている。主人公は女子の中で唯一スラックスを履いて通学し、元人気アイドルだった過去を隠しながら高校生活を送る神山仁那。アイドル時代の握手会でファンに刃を向けられたことで心と体に深い傷を負う設定は、同様の事件が実際に起きたこともあって、連載当初はSNS上で「生々しい…」「『りぼん』でここまでやるのか」の声が一部あったが、少女の悩む姿や行動に「仁那ちゃんの気持ちわかる」「男性にも読んでほしいな。女性の気持ちの代弁」などと共感する声が多くあがっていた。そこで同作の反響について、作者・牧野あおい氏にインタビューを実施し、あわせて『りぼん』の相田編集長にも質問。「ここ最近の少女漫画の中では『異例』と言える」と編集長も指摘する独自の作風だが、牧野氏は「『女の子が困難から立ち直る』が一つのテーマですが、男女の違いに悩んでいる子に対しても味方になりたい」と、『りぼん』で掲載する意義を語ってくれた。
■アイドルの「夢」より「現実」を追求 描きたいのは主人公の“再生”
――『りぼん』の読者層を考えると本来、「キラキラしたアイドルを目指す女の子の物語」が王道かと思います。握手会での切りつけ事件など、「夢」より陰やリアリティーを追求している作品だと感じました。このテーマを『りぼん』で掲載する意義とはどんな点でしょうか。
【牧野】アイドルは昔と変わって、ツイッターや映像で活動の裏側を見せるようになりましたよね。アイドルのドキュメンタリー映画だと、輝かしいステージの裏では苦しんでいたりと、それを見て「アイドルはキラキラしているだけじゃないんだ」と思いました。それを自分なりに解釈して描いています。世間の方々もその姿を見ているので、違和感なくリアリティーを感じていただけていると思います。
ただ、アイドルの代弁ではなく、世の中の悩んでいる女性全員へ向けた作品のつもりです。アイドルの世界から抜けた主人公の女の子・神山仁那が、困難からどう立ち直っていくのか「再生」を描いていきたいです。スカートではなくスラックスを履くなど、「ジェンダーを配慮した作品」と言われているのですが、それだけが目的ではなく、悩む女の子が立ち直っていくストーリーなので、根本は王道だと思います。
【相田編集長】『りぼん』は少女漫画の入り口になるべき雑誌であって、「小中学生女子に読んでもらうべき」という前提があれば、恋愛・王道ストーリーはもちろん様々なエンタメジャンルの作品があってよいと考えております。最初に少女読者が手にする可能性が高い雑誌だからこそ、掲載する作品ジャンルの幅を狭めてはいけないと考えています。
また、一方で『さよならミニスカート』は、現実へのリアルで厳しい視点はありますが、その中で、主人公のヒロインが、魅力的な男性と出会うことで、生きていく上での希望を見出していくというサクセスストーリー展開がきっちりと含まれています。そういう意味では、作品の描き方は異例な部分もありつつも「王道」の少女漫画であると自負しています。
――ストーリーは考えさせられる部分が多く、大人にも向けられた印象を受けました。『りぼん』の読者層へは、どのようなことを意識して描いているのでしょうか。また、読者からはどのような声が届いていますか。
【牧野】 子供向けを描いているつもりはなくて、大人が読んでも面白いと思う漫画を子供にも読んでほしい想いがあります。読者を子供扱いしたくない。実際、『りぼん』読者自身も大人になってきていると言いますか、ネットなどの情報ツールが増えて漫画の知識も増えていると感じます。
作中のシーンは、私が高校時代に経験した嫌だったことをモチーフに描いています。ストレートに事実を掲載しているわけではありませんが、「こんなことあったよね? みんなも経験しているよね」とあるあるネタを入れているので、男女、年代問わず共感してくださっているんだと思います。そこで、夢より現実味を強く感じてもらっているかも知れません。
■「少女漫画は女の子の味方」 主人公に託したメッセージ
――アイドル界を去ったその後のストーリーであれば、経歴を隠す設定は自然な流れですが、なぜミニスカートにも“さよなら”しなければならなかったのでしょう。主人公はどのように誕生したのですか。
【牧野】まず、主人公は「男の子っぽい女の子を描きたい」構想から生まれました。男装して男子高に潜入するようなことは少女漫画ではよくあることで、主人公は王道。ただ、「主人公が男装している意味は何か?」と考えた時に、「女の子が嫌になった」という案が浮かびました。嫌になった意味を考えたら、男の子からひどい目に遭わされたり、「女だから…」と言われて「女性であること」が嫌になっていく案になりました。
そういう考え方をしているうちに、アイドルの方々も同じ境遇になった経験があるのかも知れないと。そこで、握手会での切りつけ事件の案が出てきました。ミニスカートではなくスラックスを履いたことで、「ジェンダー(問題)に配慮した作品」と呼ばれることも多いのですが、特にそれだけを意識しているわけではありません。「女性であること」が嫌になり「男」に憧れる時期は多くの女性が経験していると思っています。私の身近にも、高校時代にスカートを制服以外で履きたくないという子がいましたし、男子に憧れる子も見てきました。仁那はこうして誕生したのです。――「男」に憧れる理由は具体的にどのようなことなのでしょうか。
【牧野】『りぼん』読者の年代(小学校高学年から中学生)の時期って「私、女の子で嫌だな…」と悩んでいる子は多くいると思います。体の変化も出てきて男女の違いを実感し悩む機会が出てくる。そこで、男の子が羨ましいと思う時期があったり、人間関係を見ても、女子だと派閥やグループが自然と分かれ出来上がるのですが、男子だとそれがあまりないイメージで、壁がなく仲良く付き合えてうらやましいなと。
ちょっとガサツなことを女子がやると色々と言われるのですが、男子は言われない(笑)今はあまりないと聞きますが、お手伝いするのも女子だけが多かった。そこでよく言われたのが、作中にもあるセリフ「女の子だから…」。
――確かに「女だから…」のセリフは作中に多く登場します。何気ない一言だとは思いますが、女性からすると受け止め方が深いのでしょうか。
【牧野】男性は悪意があって「女だから…」と発言しているわけでないと理解しているのですが、女子からしたら想像以上に心に刺さる言葉。例えば「お前だから、〇〇ちゃんだからできない」と言われたら、自分自身の能力の問題として受け入れられるのですが、「女だから…」だと「自身じゃどうしようもできない」と思い解決しようがなく悩んでしまうのです。
「女の子が困難から立ち直る」が一つのテーマですが、男女の違いに悩んでいる子に対しても味方になりたい。少女漫画は女の子の味方であり、味方になれるように描き続けたい想いがあります。“悩み”から立ち直る仁那の姿を見て、読者に希望を与えられたらと。『少年ジャンプ+』に掲載され、男性読者から「面白い! 少年誌で読める」などと少年漫画として見て評価していただくことは光栄なのですが、何よりも“女の子の味方”でいたい想いがあるので、少女漫画誌で掲載することに意義があると思っています。
――相田編集長から見て、『さよならミニスカート』の魅力はどこでしょうか。連載時に「異例」というキャッチコピーでアピールしていましたが。
【相田編集長】『りぼん』では、ターゲットの読者層である小中学生に喜んでもらう作品作りが第一であるがゆえに、「小学生女子だけでなく、大人の女性や男性読者でも楽しめる少女漫画」というものを生み出す難しさが結果としてあるように思います。これは、個人的見解ですが「少年漫画」や「青年漫画」のほうが、結果として広い読者層に読まれているように思えます。
そんな中『さよならミニスカート』は、まぎれもなく少女漫画であり、小中学生の女子にこそ読んでもらいたい作品でありながら、幅広い年齢層、男女どちらの興味をひく要素がたくさん詰まっているという意味で、ここ最近の少女漫画の中では「異例」と言えると思います。逆にいえば、刺激的な題材や現実の世界へのリアルな眼差しがありながらも、少女漫画の本質を鋭く描けている。そこにこそ、この作品の本当の価値があるのではないかと感じています。
■アイドルの「夢」より「現実」を追求 描きたいのは主人公の“再生”
――『りぼん』の読者層を考えると本来、「キラキラしたアイドルを目指す女の子の物語」が王道かと思います。握手会での切りつけ事件など、「夢」より陰やリアリティーを追求している作品だと感じました。このテーマを『りぼん』で掲載する意義とはどんな点でしょうか。
【牧野】アイドルは昔と変わって、ツイッターや映像で活動の裏側を見せるようになりましたよね。アイドルのドキュメンタリー映画だと、輝かしいステージの裏では苦しんでいたりと、それを見て「アイドルはキラキラしているだけじゃないんだ」と思いました。それを自分なりに解釈して描いています。世間の方々もその姿を見ているので、違和感なくリアリティーを感じていただけていると思います。
ただ、アイドルの代弁ではなく、世の中の悩んでいる女性全員へ向けた作品のつもりです。アイドルの世界から抜けた主人公の女の子・神山仁那が、困難からどう立ち直っていくのか「再生」を描いていきたいです。スカートではなくスラックスを履くなど、「ジェンダーを配慮した作品」と言われているのですが、それだけが目的ではなく、悩む女の子が立ち直っていくストーリーなので、根本は王道だと思います。
【相田編集長】『りぼん』は少女漫画の入り口になるべき雑誌であって、「小中学生女子に読んでもらうべき」という前提があれば、恋愛・王道ストーリーはもちろん様々なエンタメジャンルの作品があってよいと考えております。最初に少女読者が手にする可能性が高い雑誌だからこそ、掲載する作品ジャンルの幅を狭めてはいけないと考えています。
また、一方で『さよならミニスカート』は、現実へのリアルで厳しい視点はありますが、その中で、主人公のヒロインが、魅力的な男性と出会うことで、生きていく上での希望を見出していくというサクセスストーリー展開がきっちりと含まれています。そういう意味では、作品の描き方は異例な部分もありつつも「王道」の少女漫画であると自負しています。
――ストーリーは考えさせられる部分が多く、大人にも向けられた印象を受けました。『りぼん』の読者層へは、どのようなことを意識して描いているのでしょうか。また、読者からはどのような声が届いていますか。
【牧野】 子供向けを描いているつもりはなくて、大人が読んでも面白いと思う漫画を子供にも読んでほしい想いがあります。読者を子供扱いしたくない。実際、『りぼん』読者自身も大人になってきていると言いますか、ネットなどの情報ツールが増えて漫画の知識も増えていると感じます。
作中のシーンは、私が高校時代に経験した嫌だったことをモチーフに描いています。ストレートに事実を掲載しているわけではありませんが、「こんなことあったよね? みんなも経験しているよね」とあるあるネタを入れているので、男女、年代問わず共感してくださっているんだと思います。そこで、夢より現実味を強く感じてもらっているかも知れません。
■「少女漫画は女の子の味方」 主人公に託したメッセージ
――アイドル界を去ったその後のストーリーであれば、経歴を隠す設定は自然な流れですが、なぜミニスカートにも“さよなら”しなければならなかったのでしょう。主人公はどのように誕生したのですか。
【牧野】まず、主人公は「男の子っぽい女の子を描きたい」構想から生まれました。男装して男子高に潜入するようなことは少女漫画ではよくあることで、主人公は王道。ただ、「主人公が男装している意味は何か?」と考えた時に、「女の子が嫌になった」という案が浮かびました。嫌になった意味を考えたら、男の子からひどい目に遭わされたり、「女だから…」と言われて「女性であること」が嫌になっていく案になりました。
そういう考え方をしているうちに、アイドルの方々も同じ境遇になった経験があるのかも知れないと。そこで、握手会での切りつけ事件の案が出てきました。ミニスカートではなくスラックスを履いたことで、「ジェンダー(問題)に配慮した作品」と呼ばれることも多いのですが、特にそれだけを意識しているわけではありません。「女性であること」が嫌になり「男」に憧れる時期は多くの女性が経験していると思っています。私の身近にも、高校時代にスカートを制服以外で履きたくないという子がいましたし、男子に憧れる子も見てきました。仁那はこうして誕生したのです。――「男」に憧れる理由は具体的にどのようなことなのでしょうか。
【牧野】『りぼん』読者の年代(小学校高学年から中学生)の時期って「私、女の子で嫌だな…」と悩んでいる子は多くいると思います。体の変化も出てきて男女の違いを実感し悩む機会が出てくる。そこで、男の子が羨ましいと思う時期があったり、人間関係を見ても、女子だと派閥やグループが自然と分かれ出来上がるのですが、男子だとそれがあまりないイメージで、壁がなく仲良く付き合えてうらやましいなと。
ちょっとガサツなことを女子がやると色々と言われるのですが、男子は言われない(笑)今はあまりないと聞きますが、お手伝いするのも女子だけが多かった。そこでよく言われたのが、作中にもあるセリフ「女の子だから…」。
――確かに「女だから…」のセリフは作中に多く登場します。何気ない一言だとは思いますが、女性からすると受け止め方が深いのでしょうか。
【牧野】男性は悪意があって「女だから…」と発言しているわけでないと理解しているのですが、女子からしたら想像以上に心に刺さる言葉。例えば「お前だから、〇〇ちゃんだからできない」と言われたら、自分自身の能力の問題として受け入れられるのですが、「女だから…」だと「自身じゃどうしようもできない」と思い解決しようがなく悩んでしまうのです。
「女の子が困難から立ち直る」が一つのテーマですが、男女の違いに悩んでいる子に対しても味方になりたい。少女漫画は女の子の味方であり、味方になれるように描き続けたい想いがあります。“悩み”から立ち直る仁那の姿を見て、読者に希望を与えられたらと。『少年ジャンプ+』に掲載され、男性読者から「面白い! 少年誌で読める」などと少年漫画として見て評価していただくことは光栄なのですが、何よりも“女の子の味方”でいたい想いがあるので、少女漫画誌で掲載することに意義があると思っています。
――相田編集長から見て、『さよならミニスカート』の魅力はどこでしょうか。連載時に「異例」というキャッチコピーでアピールしていましたが。
【相田編集長】『りぼん』では、ターゲットの読者層である小中学生に喜んでもらう作品作りが第一であるがゆえに、「小学生女子だけでなく、大人の女性や男性読者でも楽しめる少女漫画」というものを生み出す難しさが結果としてあるように思います。これは、個人的見解ですが「少年漫画」や「青年漫画」のほうが、結果として広い読者層に読まれているように思えます。
そんな中『さよならミニスカート』は、まぎれもなく少女漫画であり、小中学生の女子にこそ読んでもらいたい作品でありながら、幅広い年齢層、男女どちらの興味をひく要素がたくさん詰まっているという意味で、ここ最近の少女漫画の中では「異例」と言えると思います。逆にいえば、刺激的な題材や現実の世界へのリアルな眼差しがありながらも、少女漫画の本質を鋭く描けている。そこにこそ、この作品の本当の価値があるのではないかと感じています。
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2019/03/09