milet、王道のJ-POP“ラブソング”で新境地 ドラマ『偽装不倫』主題歌での挑戦
“好き”って歌うのが恥ずかしかった
しかし、ドラマ『偽装不倫』(日本テレビ系)の主題歌と書き下ろされた「us」は“あなた”と“私”、“2人”の紛うことなきラブソングであり、サウンド面でも王道のJ-POPに挑戦している。
「やっぱり“好き”っていう言葉を歌うことは挑戦でしたね。感覚的には、英語で“I love you”っていうのは歌いやすいのですが、日本語で“好き”っていう言葉を使うのはなかなか勇気がいること。何度も避けようと思ったのですが、これ以上にパンチのある言葉はないなと」
彼女の言葉通り、“好き”という言葉を使ってはいるが、最後まで疑問符を投げかけたままで2人の関係性や距離は変わってないことがわかる。
「やっぱり“好き”って歌うのが恥ずかしかったので、言ってるようで伝えてないんですよね(笑)。でも、歌うのは楽しかったですよ。私は普段、人に告白をしないタイプなので、普段言えないことを言える楽しさ、ちょっとだけ違う自分になれる面白さがあった。歌う前は、暗さや孤独を歌ってきた私が、いきなりこんな可愛い歌を歌ったらどう思われるのかなっていう不安もあったけど、歌えば意外と私の歌になるんだっていう発見もありましたね」
聴く人の顔が見えるにつれて、1人じゃないと思うように
「相手がいないと始まらない歌だけど、結局は1人で思っていることではある。相手がいるから自分のことを考えているけど、相手のことを考えてしまって、どうしようって戸惑っているんですよね。1人ではあるけれど、相手のことをあまりにも意識してしまうがゆえに、自分のなかで気持ちが大きくなりすぎて、心に相手が棲み着いているような状態になっている。だからこそのタイトルかなって思いますね」
EP全体のタイトルにもなっている「us」には恋愛に2人の関係が変わることを恐れる“私”と“あなた”以外の意味も込められているそう。
「私と聴いてくれる人という意味での『us』でもありたいなと思いました。私は、私の音楽を聴いてくれる人のことが好きなんですよ。ネットの文章でしか知らないので、本当の人間性はわからないんですが、見えている部分で言えば、とても好きな人たちなんです。Twitterのプロフィールも見ますが、個性的だし、音楽をすごく愛している人たちなんです。そんな人たちが私のようにぽっと出の新人の曲を聴いてくれているっていうことがすごく面白くて、とても好きなんですね。だから、とても近くに感じていて。今までは1人で曲を作ることが多かったけど、ショーケースライブも含めて、聴いてくれる人の顔をどんどん見るにつれて、1人だけど1人じゃないと思うことが増えました」
C/Wに収録された「Diving Board」と「Rewrite」もまた、同じテーマやトーン、テンションが流れている。
「聴いてくれる人と私が一対一の関係性になれたらいいなと思っていて。今までは『勝手に感じ取ってほしい』って、ある種、投げっぱなしなところが多かったんですけど、それこそライブをやるようになってから、聴く人がそこにいるんだっていうことが実感としてわかって。だから、私が聴いてくれているあなたのために歌っているって感じてほしいなと思うようになって。そういう願望も込めた『us』なんですね。“us=私たち”は何人にでも数えられる言葉だけれど、私はあなたのために歌っているっていうことをわかってほしいからつけたタイトルです。
なかなか一歩を踏み出せない親友を後押しするつもりで書いた『Diving Board』も、自分の人生は何度でも書き直せるんだよっていう前向きな選択肢を書いた『Rewrite』も、自分の背中を押してくれているって感じてもらえたらいいなと思っています。結局、何をするときもでも1人であることには変わりはないけど、1人で頑張らなきゃいけないっていうことではなくて。味方をつけてもいいし、頼りにもしてもらいたいんですよね。1人では苦しかったり、辛かったりするし、1人じゃない実感が湧いて初めて動き出せることもあると思う。動くのは自分の足だけど、音楽くらいは味方でいてくれてもいいと思うし、ハッピーになるためには人の力を借りてもいいんですよ。それをわかってほしくて、でも直接言うのは恥ずかしいので、やっぱり遠回しに歌っていますね(笑)」
文/永堀アツオ