“あざと可愛い”「#あわあわダンス」がアジアを席巻 若年層巻き込むTikTokのプロモーション戦略
ティーンに刺さる歌詞と、あざと可愛いダンスがカギに
神保咲良 まず同楽曲はAWAとTikTokが業務提携したことを記念して、昨年12月に発表したものです。プロモーションの目的は、TikTokを活発に利用する世代である若年層にAWAを認知してもらい、若年層の音楽に対する意識を変えていきたいというところにありました。今はまだお小遣いの範囲で音楽配信サービスに課金することは難しくても、将来的に、違法アプリや動画サイトで聴くのではなく、お金を払って充実したサービスを受けたいと検討に入ったタイミングで、第一想起に上がる音楽配信サービスになっていれば、という長い目で見た施策として、「ラブソングを聴こう」の配信、および「#あわあわダンス」のプロモーション展開を行いました。
──手応えは数字にも表れていると思いますが、TikTokユーザーのティーンにウケたのはどんな要素だと分析されますか?
神保 TikTokのコミュニティの世界観を崩さずに、ティーンに刺さる歌詞と、「あざと可愛いダンス」を展開したということが大きかったと思います。特にダンスは、真似できなくはないけど少し練習したらできそう、というレベルのダンスに仕上げています。振り付けを少し難しくしたのも理由があり、ダンスを練習しているうちに曲が刷り込まれることを狙いました。あくまで音楽配信サービスのプロモーションですので、ダンスを練習しているうちに、まず歌詞の中で「AWA」という言葉の認知をしてもらい、次に曲に興味を持ってもらい、そしてAWAで聴いてもらうという自然な流れができるように設計しました。
──振付をした「えりなっち」さんとは、どんな方なんですか?
神保 ダンサーで振付師の方なんですが、彼女自身もTikTokerで、面白い動画を多くアップしています。支持されるTikTokerの要素として1つ感じているのは、可愛いだけではダメだということ。可愛いけど平気で変顔をするような、いわばクラスで人気者になる女の子の要素です。自分が可愛く見える角度の自撮りばかりをアップしている人は、男子からはモテるけど女子の間ではあまり人気がなかったりするじゃないですか(笑)。えりなっちさんの振付は、そこの可愛さと面白さのバランスが絶妙なんです。
企業色を消すことで、若年層の自発的な行動に訴求
神保 これについては、それこそTikTokのコミュニティの世界観を守るためにあえて余白を残し、公開していません。作詞作曲ともに、一流のクリエイターの方に作っていただいているのですが、情報公開を制限することでユーザーが勝手に想像し、会話が起こることを狙っています。その結果、今回実際に「歌っているのは誰なんだ」「作詞したのは誰なんだ」というコメントや記事が上がりました。スマホネイティブ世代である今のティーンは、大人の仕掛けを簡単に見透かすので、「見せない部分を作る」ことを心がけています。
──ハッシュタグチャレンジをプロモーションに活用する企業は非常に増えていますが、すべてがヒットするわけではないですよね。
神保 そうですね、企業色が滲み出すぎているとなかなかヒットにはつながらないと思います。「#あわあわダンス」は、そうした大人の思惑や考えを感じ取れることを消すことを意識しました。その効果からか、配信してすぐに二次創作的な文化も生まれたんです。ティーンのスピード感には私たちも驚かされましたね。
──どのような二次創作が生まれたのでしょうか?
神保 歌詞に合わせたイラストが描かれたり、別のダンスが生まれたりしたのですが、最初に目を引いたのは、歌詞を韓国語訳した動画でした。中国語・タイ語・韓国語バージョン(15秒、ワンコーラス)も公式で配信しているのですが、この最初の韓国語訳の動画は自然発生的に生まれました。最初にあげたのは韓国好きの日本人ユーザーの方です。日本のティーンの間で韓国カルチャーが人気であることから、TikTokでもハングルのハッシュタグをつけることが流行っていて、そうしたハッシュタグ経由で、日韓のユーザーにさらに広がっていくという現象が見られました。
TikTokは、音楽業界を明るくする可能性を秘めたメディア
神保 はい。そもそも外国語バージョンを配信した目的は、日本での楽曲プロモーションのための数字的インパクトを作ることにありました。「◯億再生」「◯万投稿」という数字を日本だけで作るのはなかなか難しい。またTikTok内でブームになっても、TikTokを利用しない方には届きません。その点、数字的インパクトがあると、他のメディアからも注目が集まるようになります。倖田來未さんの「め組の人」もそうでした。あの楽曲もTikTokのなかで自然発生的に火が付き、それがマスに取り上げられて外の世界にも広がっていったという経過がありました。自然発生的にブームが生まれているなかで、意図的でも要素が揃えばティーンのあいだで火がつき広まっていくのではと考えました。
──時代と共に音楽プロモーションの手法も変わります。このたびの成功例を受けて、ティーンに刺さるプロモーションとはどのような要素が必要とお感じになりましたか?
神保 昔はテレビなどのマスメディアでの露出量がダイレクトにCDの売り上げにつながり、チャートに入るという流れだったと思うのですが、“多様性の時代”と言われる今のティーンはチャートなどの指標を重要視していません。また企業側から一方的に情報を押し付けられるのも敬遠します。最も信頼するのはコミュニティ内の口コミ。仲の良い友だちの評価や、SNSの「いいね」の数もその1つです。つまり、彼らに自発的に口コミを起こしてもらうことが重要だと思います。それ自体とても難しいことですが…(苦笑)。TikTokはまだチャートに入ってないような楽曲が人気になっていたり、旧譜の人気楽曲のオマージュ的な音源が流行っていたりして、音楽のプロモーションの新しい場として活用できるなと思いました。多種多様な世界観の中で、独自のヒットが生まれているTikTokはヒットが生まれにくいと言われている音楽業界を、明るくする可能性を秘めた1つのメディアだと思っています。
──AWAとの業務提携によって、TikTokで興味を持った楽曲に直線的にたどり着ける動線も敷かれました。
神保 今後レーベルと連携しながら、第2弾、第3弾のオリジナル楽曲も制作したいと考えています。AWAのコンセプトである“素晴らしい音楽との出会い”をあらゆる手法で届け続けることで、これまでよりも人々が音楽に使う時間とお金を増やしたいと思っています。
(文/児玉澄子)