『きのう何食べた?』Pインタビュー 男性視聴者の多い「テレ東ドラマ24」に新たな風を
女性から『おいしそう』と思われる おしゃれさにこだわり
なかでも主人公2人のキャストには原作者も「びっくりするほどそっくり」とコメントしており、その再現度が原作ファンから高く評価されている。
松本拓プロデューサー好意的なコメントをいただけて、まずはホッとしました。ただ西島さんに関しては原作のシロさんのイメージはあったと思うんですが、ケンジ役の内野さんについてはむしろ『硬派な内野さんがこんな柔らかな役を?』と驚かれた方も多くいらっしゃったんじゃないかなと。だからドラマ化発表の第一報では、2人が並んでご飯を食べているビジュアルを出したんです。『ほら、ケンジでしょ。』っていう。ただ内野さんのパブリックイメージからは意外性があっても、芝居への信頼はもちろん、ビジュアル的にも実は原作のケンジに近いという目算はありました。
テレ東ドラマ24といえば『孤独のグルメ』をはじめとする「飯もの」のヒット系譜があるが、本作も深夜のフード描写に期待したいところだ。
松本氏ただ本作についてはガッツリ男飯ではなく、女性から『おいしそう』と感じてもらえるような盛り付けや色合いの上品さ、おしゃれさにこだわっています。これまでドラマ24はどちらかというと男性ターゲットの作品が多かったのですが、原作をお預かりするお願いをした背景には、もう少し視聴層の幅を広げたいという意向もありました。
デリケートなテーマなので 品を崩さないことが重要
松本氏柔らかいテイストが巧みな方なのでダメ元でオファーしたところ、即答で了承をいただけました。原作の力も大きかったと思いますし、安達さんがドラマのテーマ(セクシャルマイノリティ)に興味を持って下さったのが嬉しかったです。また1〜3話の監督の中江和仁さんはCMを多く手がけてきただけあって、光や色の使い方がとても上手な方です。ある種、デリケートなテーマも含まれた作品なので、品を崩さないことはとても重要だと考えています。
昨年大きな反響を呼んだ『おっさんずラブ』(TBS系)を起点に、LGBTをドラマで扱うことが一種のブームを呈しており、今期はほかにも『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)が放送される。 しかし松本プロデューサーは「特に意識した企画ではない」と断言する。
松本氏そもそも企画が上がったのも2年ほど前であり、現在の流れは予想していませんでした。内野さんもコメントしているように、原作とキャストは確定していたものの、お二人のスケジュールが合わず、ようやく実現した形です。もちろんそうした関心から観ていただいてもまったく構わないんですが、僕としてはむしろとても普遍性のある作品だと思っているんです。
松本氏彼らには同性愛者であることの根本的な悩みがありますが、誰しも日々の生活の中で生きづらさを感じることはあるはず。だけどクスッと笑える出来事もあるし、そして1日の終わりに大切な人と囲む食卓にささやかだけどかけがえのない幸せがある。大きな事件は起こらないけれど、そんな誰もが実感できるリアリティこそが、原作が支持される理由なのではないでしょうか。
彼らを取り巻く人々もどこにでもいそうで、それでいてちょっと困ったおかしな人が多い。しかしそれが悪意ではなく、コメディに昇華しているのも本作の癒やしの世界に繋がっている。
松本氏現代の視聴者の傾向の1つに、見た目のカッコよさよりも人間的な可愛さに心を寄せるところがあると感じます。その可愛さというのは、どこか欠けたところにあるのではないかと。本作もこれだけ悪人が出てこないドラマも珍しいですが、逆に完璧な人も出てこないんですよ。
1週間の疲れが残る金曜深夜、ホッとしたいのは男性も女性も変わらない。その1つの成功例が主に男性層をターゲットにした『孤独のグルメ』だとしたら、少々気は早いが本作もシリーズ化を期待したいところだ。
文/児玉澄子
(テレビ東京 制作局 ドラマ制作部 主任)
2009年、テレビ東京入社。営業局に5年半務めたあと、ドラマ部に異動。これまで手がけてきたドラマは『警視庁ゼロ係1-3』『石川五右衛門』『侠飯〜おとこめし〜』(2016年)、『フリンジマン』『テミスの剣』『銀と金』『花実のない森』(17年)、『天』(18年)、『癒されたい男』(19年)。2018年には映画『サクらんぼの恋』も手がけた。
毎週金曜24時12分〜
原作/よしながふみ
出演/西島秀俊、内野聖陽、マキタスポーツ、
磯村勇斗、チャンカワイ、真凛、中村ゆりか、
田中美佐子、矢柴俊博、高泉淳子、
山本耕史、梶芽衣子
【ドラマ24『きのう何食べた?』(公式サイト)】
https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/(外部サイト)