エイベックスのバーチャル領域での新たな挑戦 自社制作の強みを活かしたVTuberのIP創出
バーチャル領域を活用した新たなエンタメ体験を提供
「実は8月以前にも株主総会などでお披露目してはいたのですが、積極的に対外アピールはしていませんでした。というのも、奏天まひろはバーチャルアーティストを作ること自体が目的というプロジェクトではないからです。バーチャル領域を活用した新しいエンタメ体験を開発してユーザーに届ける、そのためにはバーチャルキャラクターが重要、という順番。自社開発で自由に動かせるバーチャルアーティストという新たなキャラクターIPを軸に、どんなことができるかというトライアルでもあります」(原氏)
企画自体は17年6月頃からスタートしており、当時から4人組のダンス&ボーカルユニットというコンセプトは存在していたのだという。昨年末にはYouTube公式チャンネルにて「燈舞りん」「音葉なほ」「鈴鳴すばる」の3人が仲間として加わり、まりなす(仮)という4人組ユニットとしての展開もスタートしている。
「イメージしていたのは、アニメ・ゲーム化などにも耐えうるレベルの世界観とキャラクター構築です。『ラブライブ!』のようにマスに届くIPといえばわかりやすいでしょうか。エイベックスが得意とする歌とダンスのクオリティはもちろん、デザイン面でも、コアなVtuberファンだけでなく、一般の若い女性からも支持してもらえるよう、好感の持てる、おしゃれでかわいいデザインを心がけています。肌露出や身体的な特徴などでの性的な魅力は前面に出さないよう配慮していますし、コアなVtuberファンだけでなく一般の若い女性からも支持してもらえるよう心がけてもいる。特に奏天まひろはTikTokで活動するVtokerのなかでは上位10人に入る人気となっていて、リアルとバーチャルの垣根を超えつつ、少しづつではありますが、今のところ順調にアピールできているのかなと思います」
エイベックスのリソースは、最大の効果で使うべきタイミングが来るまで温存
「普通の人間と違ってバーチャルな人間なので、見た目部分はデザイナーと密に話し合いながらデザインを完成させ、それを元にバーチャルな3Dの身体を構築します。その上で、歌やトーク、動きなどを担当するいわば“魂”と3Dの身体を馴染ませていきます。どんなことを考え、生活をしているのか、そこを実際にコミュニケーションしながらどんどん反映させ、バーチャルアーティストとしての彼女たちを、一緒に形作っています。身体がバーチャルなので、人間のアーティストとは違った調整も多く、技術的なところが安定するまでは生身の方とやるよりも正直大変だと思います(苦笑)」
それでもなお、バーチャルだからできることをきちんと追求するために、トライアルは意欲的に続けていくという。
「ここ半年間で、あらかた既存フォーマットでの露出は試してみて、多くの知見を蓄積できています。実は本格スタート以前に、私自身でアカウントを取得し、作成ツールや配信ツールなどゼロからひと通り触ってライブ2DまでVtuberを体験してみたんです。Vtuberが成立するまでの行程や、個人で運営しているような方がどんなことを課題として考えるのか、といった感覚を把握するために勉強した。それでひと通り理解した上で、今はあえて地道に展開しています。エイベックスという大きな組織の持つリソースや機能は、最大の効果で使うべきタイミングが来るまで温存するという考え方ですね」
ユニットが4人体制になったことで、それぞれの個性がさらに明確になり、新たな展開がスタートしているという。
「今後の展開では、より深くキャラクターに没入できるようになるので、ユーザーは彼女たちの毎日の物語に参加しているような感覚が味わえるようになっていきます。ベースの物語をYouTubeなどで無料で楽しみつつ、有料でも体験したい高付加価値コンテンツを散りばめて展開します。ゲームやアニメ化にもいずれチャレンジしたいですし、当然、音源ビジネスも考えています。音源については、また新しいギミックを仕掛けてみようと準備しているところ。とにかく試せることはすべて試していきたい」
(文/及川望)