“ダーク”な新世代歌姫・milet、ドラマ主題歌から注目 「不安をそのまま言葉に」
将来は音楽関係の仕事に就けたらいいな…と漠然と思っていた
milet ランキングに自分の名前が載っていることが、まだちょっと信じられないですね。錚々たる方々のなかにポツンと入っている感じが嘘みたいですが、こんなに反響をいただけるとは思ってなかったので嬉しかったです。
ハスキーながらもパワフルな歌声で世間に大きなインパクトを与えた彼女だが、本格的に音楽活動を始めたのは2018年から。クラシックが流れている家庭で育った彼女は、小学生の頃からフルートを始め、一時は音大を目指すほどのめり込んでいたという。やがて、兄にお下がりとしてもらったiPodに入っていたシガー・ロスやビョーク、BOOM BOOM SATELLITESやASIAN KUNG-FU GENERATIONなどを介してクラシック以外の洋楽や日本語ロックと出会ったことで、音楽の幅は広がっていったが、「歌を歌おうとは思ってなかった」そう。
milet 4年前に友達の前で歌う機会があり、当時流行っていたジェシー・Jの『プライス・タグ』を歌ったら、友人のひとりが感動してくれて。その時までは、将来は音楽関係の仕事に就けたらいいな…漠然と思っていたくらいでしたが、その時にはっきりと歌をやろうって思いました。その後、友達づてにソニーミュージックの方に私の歌を聴いてもらったことがきっかけですね。
イヴ・サンローランも注目 今の日本の音楽シーンでは珍しい“ダーク”さが魅力
milet イヴ・サンローランの人に聴いてもらえる機会があったみたいで、すぐに決まって。それまでライブをしたこともなかったので、今思い出しても蘇ってくるぐらい緊張していたし、倒れそうになるほどに震えていました。でも、初めてのライブが誰もが知っているブランドのイベントだったことは本当に光栄ですし、スタッフの方に“ダークだけど、しっかりとした芯のある女性”というイメージに合っていると言っていただけたことも嬉しかったです。自分の声が、そういう風に聴こえていることも発見できました。自分の声がそんなに特徴のあるとも思っていなかったので。
彼女の声の特徴を1つだけ挙げるとするならば、やはり“ダーク”であるということに尽きるだろう。日本の音楽シーンでは、20代前半の女性の歌声は年々、甲高くなり、幼児化が進む傾向にあるが、彼女は地声よりも低いミドルやローをしっかりと響かせ、高音域では息声も効果的に使うことで、他にはない独特のムードを作り出している。ここでの“ダーク”という表現はただ単に“暗い”“闇”ということではない。“表面からは見えないさま”や“隠れている部分”、つまり、心の奥底の思いを歌っているという意味。それは、彼女の音楽の根底に通奏低音のように流れている本質的なテーマであるのだが、それは、彼女が思春期の頃にカナダに留学していたこととも密接な関係がある。
milet 別の環境に置かれた時に、それまでに自分が聴いてきた音楽を聴きなおしてみたら聴こえ方が変わってきて。そこで、改めて、自分のベースがしっかりとわかったんですね。やっぱり、ちょっと孤独な音楽というか、自分のスペース、部屋、ベッドに戻れる場所になる音楽が好きだなって。低めのところで這うような暗い曲を作るのが楽しい。だから、頑張れ! 頑張れ!ってみんなを元気づけるような曲ではないけれども、<そのペースでいいよ>って寄り添ってくれるような音楽が自分には合っているかなって思うし、疲れた時とかに聴いてもらえたらと思いますね。暗い曲だけどどこか落ち着くとか、聴いてくれた人が平和な気持ちになる曲を歌いたいですね。
日本語と英語で表現した「inside you」には、ONE OK ROCKのToruも楽曲に参加
milet 日本語に直すのは大変だったのですが、ドラマに近づけられるように恋愛色を抑えました。ドラマの脚本をいただいた時に、どんな手を使っても諦めずに守っていくという姿勢を感じたので、歌詞にも<私はあなたを諦めない>というメッセージを込めていて。タイトルはそれぞれの人の内側にいる人という意味。例えば、お母さんでもこの人誰だろう? って、全然私が知らない顔に見える瞬間があるじゃないですか。その時に抱いた不信感や初めて見るものに対する不安をそのまま言葉にしています。私のなかにも何人もの知らない私がいるなと思いますね。
ダークさ、孤独、自分のなかにいる誰か。ドラマの監督でもある関が手がけたMVには彼女の音楽的なテーマやさまざまなアイデアも盛り込まれている。
milet 私、映像系の大学に行っていたので、関監督についての授業もあったんですよ。だから、関監督に撮っていただけるって決まった時は、『まさかレジュメで見た人と!?』っていう感じでびっくりしました(笑)。関監督には、鏡を見て自分を認識する“鏡像段階”から始めたいっていうお願いをして。あと、“体からなんか出したい”というアバウトなことを言ったら、結果、赤い羽根を出してくれました。ここから飛び立たせたいっていう意味合いも持たせてくれたのかもしれないですね。
デビューEPにはさらに松本穂香主演のCX系ドラマ『JOKER×JOKER』のOPテーマで「孤独だけど強い。ひとりだけど弱くないというメッセージを込めた」という「Again and Again」とEDテーマ「I Gotta Go」に加え、仄暗い山奥に静かに流れる滝とナイアガラのようなダイナミックな滝が共存した「Water fall」が収録されている。
milet 3曲もタイアップをいただいていて、私自身も驚きのデビューEPになりました。それぞれ曲調も使ってる音も違うけど、そのなかでも一貫して聴こえるものが、miletというものかなと思いますし、この4曲が私のベースになると思います。これからもジャンルを問わずに面白いものを作っていきたいし、音楽を通して、いろんな映像とも関わっていきたい。あとは、緊張はしますけど、やっぱりライブはしたいです。どんな人が私の曲を聴いてくれているのかを早く生で見てみたいなって思っています。
(文/永堀アツオ)