北川景子、30代で開花した“人間力”を武器にする女優としての厚み
「美少女→美人女優」の背負う宿命と覚悟
次に意識したのは、初出演映画だった森田芳光監督の『間宮兄弟』(06年)。沢尻エリカの妹役として出演した北川景子は、セーラーマーズとはまた異なる、初々しく瑞々しい、やわらかな雰囲気を見せていた。佐々木蔵之介とドランクドラゴン塚地武雅演じる「天然記念物」のような奥手のオタク兄弟との交流でのカレーパーティーのシーンなどは、まるでファンタジーのような愛らしさがあった。同作の森田芳光監督は、まだ女優を始めたばかりで演技に迷う北川に「魅力的なんだから、自由にやればいい」と言ってくれた恩師だという。
そして、その縁から同じく森田監督の『サウスバウンド』(07年)に出演。また、『間宮兄弟』での共演から仲良しになった塚地との相性の良さは、再共演した映画『ハンサム★スーツ』(08年)でも発揮される。
とはいえ、北川にとっての大きな武器である「美人」という要素は、ともすれば女優にとってデメリットにもなりかねない。
「なりたい顔」ランキングなどでは、首位を含めた上位に常にランクイン。キリリと整いすぎた美人顔は、親近感を持たれにくいし、オファーされる役柄の幅も広がりにくい。そのため、連ドラではイケメン俳優の相手役や、美人のお嬢様役などを務めることが多く、少々一辺倒な演技に見える時期もあった。「棒読み」などと揶揄されることすらあった。
新たに掴んだ「キャラもの女優」としてのポジション
そして、そうした「無表情」演技をデフォルメし、コミカルな表現に転じたのが、主演ドラマ『家売るオンナ』(日テレ系/16年)である。能面のような無表情で棒読みゼリフを言い、真剣さで笑いをとったかと思うと、勝負どころでは目をカッと見開いて「GO!」と叫んで大暴れ。緩急つけた演技により、新たに「キャラもの女優」としてのポジションも手に入れた。
さらに、今年に入り、『フェイクニュース』(NHK総合)では、新聞社から出向中の女性記者をリアルに演じた。これまでも「気の強い美女」はたくさん演じてきたが、本作では強さ・美しさの奥にある「慎重さ」や「思慮深さ」「迷い」などが抑えた演技から漂ってくる。
また、大河ドラマ『西郷どん』(NHK総合)で演じた篤姫役では、男勝りな気丈さと、優しさ・健気さを繊細に表現。再登場で描かれた「江戸無血開城」では、徳川家存続を懇願する悲哀とともに誇り高さ、凛々しさを感じさせた。時の流れを感じさせる篤姫の変化については、SNS上で「声色や話し方で、篤姫が上り詰めた事がよく伝わってきた」など、絶賛の声があがっていたほどだ。