吉岡聖恵、放牧からソロ活動への胸中 「一度離れてまた歌いたいと思った」

 昨年1月から“放牧中”のいきものがかりのボーカル・吉岡聖恵が、本格的なソロ活動第1弾として、カバーアルバム『うたいろ』を10月24日に発売。放牧後、「歌も歌ってなかったし、音楽もほとんど聴いてなかったんです」という吉岡は、“自分にとって歌ってなんだろう?”と模索していた。ソロ活動のきっかけとなったのは、大瀧詠一と中島みゆきのカバーを依頼されたこと。吉岡にとっての“歌”とは、そしていきものがかりのメンバーに対する想いについて改めて語った。

大瀧詠一と中島みゆきのカバーをきっかけに歌へのスイッチが入った

 「夢で逢えたら」(大瀧詠一/『EIICHI OHTAKI Song Book III 大瀧詠一作品集Vol.3 「夢で逢えたら」(1976〜2018)』)、「糸」(中島みゆき/「トヨタホーム」CMソング)をはじめ、「少年」(ゆず)、「アイネクライネ」(米津玄師)、「初恋」(村下孝蔵)などが収められた本作からは、J-POP、歌謡曲をルーツに持つ彼女の音楽性、そして、表現力に富んだボーカルの魅力がしっかりと感じられる。

 “うたいろ”と表紙に手書きされた取材ノートを持って、インタビュー場所に現れた吉岡聖恵。「今日はリーダー(水野良樹)がいないから、1人でお話しないといけないので。新鮮ですね。いちいち楽しいです」と笑顔で話し始めた。
吉岡 いきものがかりとして10年やってきて、いろいろなことを経験させてもらって。デビューしたときから、メンバーと“10年やれたらすごいよね”と話していたし、“このタイミングで、それぞれ興味のあることをやってみよう”ということになったんです。リーダーはいろんなアーティストの方に楽曲を提供したり、マジメに音楽を追求して。山下(穂尊)はキャンピングカーでいろんなところに旅行して、マジメに遊んで(笑)。私は最初、リフレッシュがメインだったんです。まずハワイに行って、その後、『グラミー賞』の授賞式を観させてもらって。ついこの前も、スイスに行ってきました。せっかくだから、本場の放牧を見ようと思って(笑)。

 昨年の前半は「歌も歌ってなかったし、音楽もほとんど聴いてなかったんです」という吉岡。本来のストイックな自分を抑え、ゆったりとした時間を過ごしてきた彼女が再び“歌”に向き合うきっかけは、大瀧詠一の「夢で逢えたら」、中島みゆきの「糸」のカバーを依頼されたことだった。
吉岡 「夢で逢えたら」も「糸」も素晴らしいアーティストのみなさんがカバーしている名曲。なかなか自分から“カバーします”とは言えないけど、お話をいただいたとき、直感的に“やってみたい!”と答えたんですよ。放牧されてからは、“本当に歌いたくなるまで歌わないでいよう”と思っていたし、“自分にとって歌ってなんだろう?”みたいなことも考えていたんですが、この2曲のカバーによってスイッチが入ったというか。運命的な出来事っていうと大げさだけど、大きなきっかけになりました。

久しぶりのレコーディングの前日は、ワクワクして眠れなかった

 約100曲ほどの候補のなかから、カバーする楽曲を厳選。プロデューサーの本間昭光、島田昌典にアレンジを依頼し、レコーディングに入ったとき、吉岡は「スタジオワークって、こんなに楽しかったんだ?!」と改めて実感したという。
吉岡 スタジオに行くこと自体が久しぶりでしたからね。機材を見るだけで“カッコいい!”と思ったし(笑)、ミュージシャンの皆さんの演奏を間近で聴かせてもらったり、楽器を触らせてもらうのもすごく楽しくて。以前は、そういうことを楽しむ余裕がなかったのかもしれないですね。いきものがかりの歌い手として、歌のことばかり考えていたし、“2人(水野、山下)が作ってくれた曲を歌う”という役割分担がはっきりしていたので。そもそも自分で歌いたい曲を選ぶということが初めてですからね。レコーディングの前日はワクワクして眠れませんでした(笑)。もしかしたら、緊張してたのかもしれないけど。

 彼女自身の音楽的ルーツと現在のモードが感じられるのも、本作「うたいろ」の聴きどころ。選曲の基準は「歌の主人公のキャラクターに魅力を感じること」だったという。
吉岡 たとえば米津玄師さんの『アイネクライネ』は“引っ込み思案だった女の子が恋愛を経験することで変わっていく”という歌だと思うのですが、主人公の女の子がすごくかわいいなと思って。いきものがかりでは、2人が作ってくれた楽曲の語り部という立場だったんですが、今回のカバーアルバムでは歌の主人公にしっかり入り込んでいる感覚がありましたね。ゆずさんの『少年』はすごく明るい曲調だし、いまの気持ちにピッタリだなって。パカッと開いている状態なんでしょうね、きっと。

いきものがかりはあうんの呼吸、一度離れてみないとわからない

 「初恋」(村下孝蔵)、「さらば恋人」(堺正章)といった往年の名曲も収録。「『初恋』はメンバーも大好きな曲。J-POPの源流にある素晴らしい楽曲だし、歌っていてもしっくりくるんですよね。こう言うとおこがましいけど、“いきものがかりは、こういう曲に影響を受けてきたんだな”と感じました」という吉岡。J-POP、歌謡曲の名曲に向き合うことは、シンガーとしての彼女の在り方を見つめ直すきっかけになったようだ。
吉岡 選曲するときは“自分が歌うことで、新しいものになる予感がする”という基準もあったんですが、実際に歌ってみて“この曲は私が歌っても可能性を引き出せないかも”ということも当然あって。そういう作業を続けていくなかで、“いきものがかりは、あ・うんの呼吸で成り立ってるんだな”と気付いたんですよね。リーダーと山下が自然に作った曲ばかりなんですけど、それが自分に合っているわけじゃないですか。それはきっと、育ってきた環境や聴いてきた音楽、一緒に過ごした時間によるものなんだなって。そういうことって、一度(いきものがかりを)離れてみないとわからなかったでしょうね。

 「うたいろ」をリリースすることで、歌に対する気持ちが徐々に強まっているのは確かなようだ。
吉岡 アルバムを作ったことで、もっと歌いたいなという気持ちはあるんですけど、いきものがかりのファンの方が『うたいろ』を聴いてどう感じるかはわからないけど、楽しんでやれたことが自分のなかではすごく大きくて。“楽しそうに歌ってるな”ということが伝われば嬉しいです。

 最後に「水野さんが他の歌手に提供した曲についてどう思う?」と聞いてみた。
吉岡 まず、あんなにたくさん書いていてすごいなって思います。大原櫻子ちゃんに提供した「さよなら」なんてすごくいい曲だし、ときどきマネして歌ったりしています(笑)。でも、あまり積極的に聴こうとはしてないかな。なんか、ちょっと焦っちゃうので(笑)。とにかく3人とも元気にやってます。

(文/森朋之 写真/鈴木かずなり)

吉岡聖恵『うたいろ』のレコーディング制作ドキュメント

ゆず「少年」をカバーした吉岡聖恵のミュージックビデオ

いきものがかり 吉岡聖恵 オフィシャルサイト(外部サイト)

提供元: コンフィデンス

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