奈良県天理市にある「黒塚古墳」といえば、1997年(平成9)から翌年にかけておこなわれた発掘調査の際、33面もの大量の三角縁神獣鏡が出土した古墳として、その名をご存知の方も多いのではないでしょうか。三角縁神獣鏡の出土した当時は空前のブームとなり、連日、多くの人が詰めかけましたが、現在は静謐な環境を取り戻し、史跡公園として開放されています。今回はそんな黒塚古墳の「現在」をご紹介しましょう。
奈良県天理市の「黒塚古墳」
「黒塚古墳(くろづかこふん)」は、奈良県天理市にある古墳。方形の前方部と円形の後円部とを組み合わせたいわゆる前方後円墳で、その全長は約130メートル。後円部の直径約72メートル、後円部の高さ約11メートル、前方部高さ約6メートルの規模を誇ります。その築造時期は3世紀後半頃と推定されており、大型の前方後円墳が出現した初期の古墳に属しています。
黒塚古墳の名を、一躍、全国にとどろかせたのは、1997年(平成9)から翌年にかけておこなわれた発掘調査において、33面もの三角縁神獣鏡が出土したことにはじまります。邪馬台国の女王・卑弥呼が魏の国から下賜された鏡ともされる三角縁神獣鏡が一度に33面も出土したことで空前のブームが起こり、連日、多くの考古学ファンが詰めかけました。
現在は史跡公園としての整備がはかられています。
黒塚古墳は周囲を濠でかこまれていますが、渡り築堤があるため、実際に自分の足で古墳をめぐることも可能。
この機会に墳丘に登ってみましょう。
城郭の遺構も!?墳丘の様子
墳丘に沿うように散策路が設けられています。実際に散策路を歩いてみると、前方部と後円部とが接続するくびれの部分も確認することができますよ。
写真は前方部から後円部を撮影した一枚。
写真ではわかりにくいかも知れませんが、黒塚古墳では、前方部に比べて、後円部がかなり高く築造されています。これは前期古墳の特徴の一つとして挙げられます。
実際にご自身の目でお確かめください。
後円部の手前に見られるこちらの四角いスペース、いったい何だと思いますか?
これは戦国時代に設けられた掘割の遺構を示したものです。掘割はV字状にうがたれ、深さは3メートルにも達していました。そうなんです。黒塚古墳は、戦国時代に入ると、地元の楊本氏によって城砦化されているのです。掘割は後円部に置かれていた主郭を防衛するために掘られたものと考えられています。
楊本氏の没落後、黒塚古墳は戦国の梟雄・松永久秀によって柳本城へと改変され、江戸時代に入ると、織田信長の弟・織田長益(有楽斎)の子孫が柳本陣屋を構築しています。
黒塚古墳がこんな数奇な運命をたどっていたこと、ご存知でしたか?
後円部の様子
写真は後円部の墳丘上を撮影した一枚。柵でかこまれたところに埋葬施設があり、ここから大量の三角縁神獣鏡が発見されました。
埋葬施設周辺からの眺めは良好。遠くには大和三山などが見渡せます。
併設されている「天理市立黒塚古墳展示館」
黒塚古墳の東には「天理市立黒塚古墳展示館」が併設されています。
天理市立黒塚古墳展示館は黒塚古墳とその出土品を知るのに格好のガイダンス施設となりますので、あわせて訪れましょう。
館内には、黒塚古墳から出土した三角縁神獣鏡などのレプリカが展示されています。
実物は奈良県立橿原考古学研究所に保存されていますが、展示されているのは精巧なレプリカゆえ、三角縁神獣鏡が具体的にどのような文様を描いた鏡であるかが、よくわかりますよ。
ほかにも、館内では、発掘調査によって判明した黒塚古墳の石室が原寸大で再現されています。
ご覧のように、埋葬施設は人頭大の川原石や板石をくみあわせて作った竪穴式石室で、その長さは8.3メートルにもおよびます。石室内が異様に赤いのは、埋葬当時、遺体をおさめた木棺周辺の床面や壁面に水銀朱やベンガラが塗られていたことを示しています。
鏡や鉄製品の配置
ご覧のように、三角縁神獣鏡は木棺の外側、壁面との隙間に立ちかけられるようにして並べられていました。
注目したいのは、そのなかで一枚だけ、三角縁神獣鏡よりもひとまわり小さい鏡が床面に突き刺さるように立てられていること。これは画文帯神獣鏡と呼ばれる鏡で、被葬者の頭に当たる部分に置かれていました。
鏡と鏡のあいだに見える棒状のものは、刀剣類。鏡と刀剣類は被葬者を取りかこむようにして置かれていることから、その配置には呪術的な意味がこめられていたと考えられています。
こちらは、その形状から「U字形鉄製品」と呼ばれています。その用途は不明ですが、当時としては貴重な鉄製品が数多く出土していることから、黒塚古墳に眠っていた被葬者の地位の高さがうかがえます。
黒塚古墳が、考古学上、いかに貴重な古墳であるか、おわかりいただけたでしょうか。近くには専用の駐車場もあり、お車での来訪も可能。かつて一大ブームを巻き起こした黒塚古墳を訪れ、古代の息吹を体感してみてください。
黒塚古墳の基本情報
住所:奈良県天理市柳本町1118-2
開館時間(天理市立黒塚古墳展示館):午前9時〜午後5時
電話番号(天理市立黒塚古墳展示館):0743-67-3210
休館日(天理市立黒塚古墳展示館):月曜日/祝日(月曜日が祝・休日の場合は次の平日も休館)/12月28日〜翌年1月4日
アクセス:JR柳本駅徒歩約5分
2024年8月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
■関連MEMO
黒塚古墳―天理市ホームページ(外部リンク)
https://www.city.tenri.nara.jp/kakuka/kyouikuiinkai/bunkazaika/kurozuka/index.html
【トラベルjp・ナビゲーター】
乾口 達司