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バイプレイヤー、“ライバル過多”で交通渋滞? 主役昇進、バラエティー…活路見出す名脇役たち
ドラマ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京)出演の大杉漣(写真:逢坂 聡)
ドラマ『バイプレイヤーズ』効果も絶大 “おじさま萌え”する若年女性も急増
脇役と言えば、これまで「見たことはあるけど、役名しか知らない」「いつも○○の役をやっている人だけど名前は知らない」などと言われることが多かった。だが、メディア研究家の衣輪晋一氏は「近年は同じ若手俳優、同じアイドルが多数の作品に主演しています。テレビ視聴者層の中心である中高年が“若い子の顔が覚えられない”などと嘆く中、“いつも○○の役をやっている”自分達の年齢に近い“案の定”の俳優の、“案の定”の役柄に安心できる。それらの印象こそがバイプレイヤーの最大の強みに繋がっています」と分析する。
例えば、先日授賞式が行われた『2018年エランドール賞』では、ムロツヨシがかつて石原裕次郎や高倉健も受賞した“新人賞”を42歳で受賞。あまり日の目を見る機会のなかった脇役たちにスポットライトが当たるのは昨今の象徴的な出来事と言えるだろう。そのように、脇役たちの「主役を支える確たる演技力」が認められるのは、役者冥利に尽きるに違いない。
枚挙に暇がない名バイプレイヤー、虎視眈々と同枠を狙う“予備軍”も多数
そんな層に応えるように、近年は、映画・ドラマ本編と連動したスピンオフ動画がWEB限定配信されることも今は当たり前なっている。また、番組公式SNSでも主役以上に写真が投稿されていたりと、バイプレイヤーの活躍を気軽に楽しめるコンテンツは増えてきた印象だ。
「これらの現象によって、縁の下の力持ちだった彼らが、“縁の下”から引っ張り出され、“脇役のスター”として神輿に担がれるといった奇妙な状況に。その神輿の数が増えすぎて、スター街道だけでなく、脇役が進むべき道=脇役街道も今や大渋滞中。ライバル過多の状態に入ってしまいました」(同氏)
実際、脇役でスターと呼ばれる役者の名を挙げてみよう。岸部一徳、笹野高史、小日向文世、吉田鋼太郎、生瀬勝久、近藤芳正、高橋克実、リリー・フランキー、尾美としのり、古田新太、田中哲司、ピエール瀧、佐藤二朗、荒川良々、戸次重幸、野間口徹、安田顕、大倉孝二、鈴木浩介、山崎樹範、ムロツヨシ、滝藤賢一、岡田義徳、平山浩行…まさに枚挙に暇がない。また名脇役への道を突き進むか否かの分岐点であろう30代の俳優でも、新井浩文、平岩紙、和田正人、青木崇高、江口のりこ、山口紗弥加、田中圭、勝地涼、浅利陽介などが追い上げている。さらに、今期のドラマだけを見ても、『海月姫』(フジテレビ系)の尼~ずの4名(木南晴夏、松井玲奈、内田理央、富山えり子)や、『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』(日本テレビ系)の千葉雄大などが、脇役の若手俳優として存在感を放っている。
持ち前の演技力で主演俳優の道か、個性派キャラでバラエティーの道か? 岐路に立たされるバイプレイヤーも?
「ほかバラエティー番組で活躍する名脇役の方々も増えました。『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の『グルメチキンレース ゴチになります!』コーナーにレギュラー出演する大杉漣さんをはじめ、『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)再現VTRの木下ほうかさん、昨年大晦日の『超逆境クイズ 99人の壁』(フジテレビ系)では佐藤二朗さんがクイズ番組の初司会に挑戦。『進行は滞ることを覚悟せよ。自分のことは自分でやれ、一切俺に頼るな』と自由すぎる発言で、SNSでも『おもしろすぎる』など大好評。ほか、『関ジャム~完全燃SHOW』(テレビ朝日系)のご意見番となっている古田新太さんや、“モテエピソード”が度々出てくる吉田鋼太郎さん、旅番組などで“鉄オタ”を披露している六角精児さん、芸人顔負けのトーク力・リアクション力を披露する生瀬勝久さん、相島一之さん、温水洋一さん、大倉孝二さんなどもバラエティーで活躍。交通渋滞中の脇役街道は、多くの俳優が新たなフィールドにチャレンジしていることが伺えます」(同氏)
現状のバイプレイヤー人気では、主演作に挑む場合、“あの名脇役が主演に”などと言われてしまい、純粋な主演俳優となるのは難しいかもしれない。もともと脇役として多数の映画やドラマに出演していて、今や主演として活躍している俳優は、佐々木蔵之介、大森南朋、阿部サダヲ、堺雅人、木村多江、つい最近だと高橋一生、安藤サクラ、高畑充希、吉岡里帆などがいるが、彼らは“名脇役”という看板が掲げられる前に主役に転向している印象だ。
決して一過性のブームではなく、名脇役たちを重宝し続けるエンタメシーンに
そんな名脇役たちが、昨今のバイプレイヤーブームによって脚光を浴びることは非常に喜ばしいことであり、名脇役たちを主役に据えたコンテンツを多く発信していく制作サイドの姿勢も素晴らしい。だが、1つの作品に出演できる俳優は限られており、ましてや主演を張れる名脇役ならばなおさらだ。そして、バイプレイヤー人気により、多くの脇役たちが脚光を浴びることで、逆に脇役が“あぶれる”という皮肉な現象も危惧される。彼らの存在感が多くのエンタメシーンで重宝されるのは、疑いようのない事実。決して一過性のブームではなく、今後も“余人に代えがたい”名脇役たちを大事にするエンタメシーンであって欲しいと切に願う
(文/中野ナガ)