人気アイドルグループ・乃木坂46の白石麻衣(25)の2nd写真集『パスポート』(講談社/2月発売)が、『オリコン2017年 年間“本”ランキング』写真集部門で堂々の第1位を記録した(調査期間:2016/12/5付〜2017/11/27付)。「1万部売れれば大ヒット」と言われる写真集業界において、期間内の売上22.9万部は異例とも言える数字だ。これについては、「女性ウケ」がキーワードとして語られることが多いが、実はヒットの要因はそれだけではなかった。編集担当を務めた講談社の谷口晴紀氏に、同作の“戦略”について話を聞いた。
◆L.A.撮影の発案は白石本人、自ら知り合いのスタッフにヒアリング
白石麻衣と言えば、乃木坂46の中でもとくに女性からの人気が高いトップアイドル。2014年に篠山紀信氏によって撮影されてヒットした前作があるが、今回は「女性が見ても楽しんでもらえるものにしたら、新しいゲートが開かれるのではないかという思いがあった」と話す。
白石本人からも、「同性の女性から支持されるようなものにしたい」という要望があった。そこで谷口氏は「それを今、一番表現できるのは誰か」と考え、まずは『anan(アンアン)』(マガジンハウス)や『sweet』(宝島社)など数多くの女性誌のカバーを撮影しているカメラマン・中村和孝氏に白羽の矢を立てた。そして、スタイリストやヘアメイクも女性誌で活躍するスタッフを集めていったのだという。
「米L.A.で撮影したいと発案されたのも白石さん。L.A.では都会的なニュアンスも表現できますし、海もある。さらにオシャレなホテルなどもあるので、幅広い表現ができました」(谷口氏/同)
同作には、フリーマーケットでリラックスした笑顔を見せる白石の姿もあるが、これも白石からの発案。自ら知り合いのスタッフにヒアリングを行い、おかげで「食べている写真も多く撮影できた。ファンから“食べ石さん”と呼ばれるチャーミングさも表現できた」と胸を張る。
◆アイドル、モデル、グラビアの3つの柱が噛み合った白石
同作のヒットについては「女性ウケ」がその要因と様々なメディアが分析している。実際、渋谷の大手書店員からは「普段は写真集を買わないような、20代のキレイな女性が買っていくので驚いた」との談話が。谷口氏も「白石さんは美しすぎて、どんなに露出しても下品にならないし、女性から嫌悪感を抱かれる色気ではない。だから、白石さんの強みであるビジュアルを最大限に生かした」と付け加えるが、大ヒットの“戦略”は、実は“その先”にもあった。
「ただキレイなだけだったら、おそらくそこまでは売れない。白石さんには、モグラ(モデル・グラビア)女子的なニーズに加えて、アイドルという大きなバックボーンがある。アイドル、モデル、グラビアという3つの柱が噛み合った方だと思うのです」
そう考えた谷口氏は、改めて白石の魅力を探った。ファッショナブルであれば、女性ウケは狙える。だが「色気が下品にならない」ということは、一般のグラビア好き男性ユーザーに対してはマイナスに働く可能性がある。そこで男性が「お!」と目を引く、キービジュアルになるセクシーな写真も狙った。さらに谷口氏は彼女のファンについても思いを巡らせて、親近感のある笑顔や変顔風のアップも掲載した。実際に、女性読者、一般男性読者、ファンの読者で、ウケの良かった写真はそれぞれ異なるそうだ。
◆全写真の3分の1、約60点をWEBで見せる…業界の常識を覆すプロモーション
しかし、いくら良いものを作っても、それが人の目に留まらなければ意味がない。「白石さんの前作の写真集がヒットしていたので、それは越えられたらと思っていた。15万部を目標値に設定していたのですが、発売前に重版がかかり、発売日の時点で発行部数13万部に。さらに発売翌日、あまりの人気でプラス5万の重版。18万部になるに至って、ちょっとこれは今までと様相が違っているぞと思い始めました」
谷口氏が施行したのはWEBを利用したプロモーションだった。「業界では、一番いい写真は写真集を買った人のためのもので、WEBで見せてはダメだ、というのが半ば常識でした。ですが、それで誰にも知られず終わっていく写真集は山ほどある。そこで、かなりの部分を見せるプロモーションを仕掛けたのです」。
その写真の数は約60点。これは写真集の全写真の実に3分の1に相当する。果たして、これが功を奏した。中でも最もインパクトを残した写真は、露出の多いデニム素材のオーバーオールから、白石の美乳がうかがえる横からの写真。谷口氏は「あの写真が載っている写真集だよね、という“アイコン”を作れたのも大きいですね」と分析する。
◆“売れている”こと自体がニュースになり、転がり続けていく
インターネットのバズ効果もあり大ヒットとなった本作。しかし、意外にも最もバズったのはセクシーな写真ではなく、写真集の大ヒットを取り上げた記事で、そこに掲載されたのは笑顔ではしゃぐ白石の写真だった。
「あくまで結果論ですが、一般の方に手にとってもらうためには、そうした社会性、ニュース性を持ったキャッチコピーが大切ではないかと思いました。“売れている”こと自体がニュースになり、転がり続けていく。今は、さまざまなものがあふれる中、アタマ一つの抜け出るためのストーリーが重要なのかもしれません」
谷口氏は現在、写真集業界で新たな潮流を作ろうと模索中だという。果たして今後、谷口氏のどのような“戦略”が世を騒がせていくのか。白石麻衣の写真集は、白石にとっての新しい世界への“パスポート”となっただけでなく、写真集業界で新たな扉を開く“パスポート”になっているのかもしれない。
(文:衣輪晋一)
◆L.A.撮影の発案は白石本人、自ら知り合いのスタッフにヒアリング
白石麻衣と言えば、乃木坂46の中でもとくに女性からの人気が高いトップアイドル。2014年に篠山紀信氏によって撮影されてヒットした前作があるが、今回は「女性が見ても楽しんでもらえるものにしたら、新しいゲートが開かれるのではないかという思いがあった」と話す。
白石本人からも、「同性の女性から支持されるようなものにしたい」という要望があった。そこで谷口氏は「それを今、一番表現できるのは誰か」と考え、まずは『anan(アンアン)』(マガジンハウス)や『sweet』(宝島社)など数多くの女性誌のカバーを撮影しているカメラマン・中村和孝氏に白羽の矢を立てた。そして、スタイリストやヘアメイクも女性誌で活躍するスタッフを集めていったのだという。
「米L.A.で撮影したいと発案されたのも白石さん。L.A.では都会的なニュアンスも表現できますし、海もある。さらにオシャレなホテルなどもあるので、幅広い表現ができました」(谷口氏/同)
同作には、フリーマーケットでリラックスした笑顔を見せる白石の姿もあるが、これも白石からの発案。自ら知り合いのスタッフにヒアリングを行い、おかげで「食べている写真も多く撮影できた。ファンから“食べ石さん”と呼ばれるチャーミングさも表現できた」と胸を張る。
◆アイドル、モデル、グラビアの3つの柱が噛み合った白石
同作のヒットについては「女性ウケ」がその要因と様々なメディアが分析している。実際、渋谷の大手書店員からは「普段は写真集を買わないような、20代のキレイな女性が買っていくので驚いた」との談話が。谷口氏も「白石さんは美しすぎて、どんなに露出しても下品にならないし、女性から嫌悪感を抱かれる色気ではない。だから、白石さんの強みであるビジュアルを最大限に生かした」と付け加えるが、大ヒットの“戦略”は、実は“その先”にもあった。
「ただキレイなだけだったら、おそらくそこまでは売れない。白石さんには、モグラ(モデル・グラビア)女子的なニーズに加えて、アイドルという大きなバックボーンがある。アイドル、モデル、グラビアという3つの柱が噛み合った方だと思うのです」
そう考えた谷口氏は、改めて白石の魅力を探った。ファッショナブルであれば、女性ウケは狙える。だが「色気が下品にならない」ということは、一般のグラビア好き男性ユーザーに対してはマイナスに働く可能性がある。そこで男性が「お!」と目を引く、キービジュアルになるセクシーな写真も狙った。さらに谷口氏は彼女のファンについても思いを巡らせて、親近感のある笑顔や変顔風のアップも掲載した。実際に、女性読者、一般男性読者、ファンの読者で、ウケの良かった写真はそれぞれ異なるそうだ。
◆全写真の3分の1、約60点をWEBで見せる…業界の常識を覆すプロモーション
しかし、いくら良いものを作っても、それが人の目に留まらなければ意味がない。「白石さんの前作の写真集がヒットしていたので、それは越えられたらと思っていた。15万部を目標値に設定していたのですが、発売前に重版がかかり、発売日の時点で発行部数13万部に。さらに発売翌日、あまりの人気でプラス5万の重版。18万部になるに至って、ちょっとこれは今までと様相が違っているぞと思い始めました」
谷口氏が施行したのはWEBを利用したプロモーションだった。「業界では、一番いい写真は写真集を買った人のためのもので、WEBで見せてはダメだ、というのが半ば常識でした。ですが、それで誰にも知られず終わっていく写真集は山ほどある。そこで、かなりの部分を見せるプロモーションを仕掛けたのです」。
その写真の数は約60点。これは写真集の全写真の実に3分の1に相当する。果たして、これが功を奏した。中でも最もインパクトを残した写真は、露出の多いデニム素材のオーバーオールから、白石の美乳がうかがえる横からの写真。谷口氏は「あの写真が載っている写真集だよね、という“アイコン”を作れたのも大きいですね」と分析する。
◆“売れている”こと自体がニュースになり、転がり続けていく
インターネットのバズ効果もあり大ヒットとなった本作。しかし、意外にも最もバズったのはセクシーな写真ではなく、写真集の大ヒットを取り上げた記事で、そこに掲載されたのは笑顔ではしゃぐ白石の写真だった。
「あくまで結果論ですが、一般の方に手にとってもらうためには、そうした社会性、ニュース性を持ったキャッチコピーが大切ではないかと思いました。“売れている”こと自体がニュースになり、転がり続けていく。今は、さまざまなものがあふれる中、アタマ一つの抜け出るためのストーリーが重要なのかもしれません」
谷口氏は現在、写真集業界で新たな潮流を作ろうと模索中だという。果たして今後、谷口氏のどのような“戦略”が世を騒がせていくのか。白石麻衣の写真集は、白石にとっての新しい世界への“パスポート”となっただけでなく、写真集業界で新たな扉を開く“パスポート”になっているのかもしれない。
(文:衣輪晋一)
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2017/12/03