10月15日と22日の2週にわたり、2002年に発覚した「北九州連続監禁殺人事件」の犯人の息子(24)の初メディアインタビュー「人殺しの息子と呼ばれて…」を放送し、大きな話題となったフジテレビ系ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜 後2:00※関東ローカル)。番組を統括するのは、かつてNHKの報道番組の第一線で活躍し、2005年からフジに入社した張江泰之氏。インタビュー最終回では、NHKと民放のドキュメンタリー番組の違い、各回のタイトルへのこだわり、そして話題となったフジテレビの報道番組と“誤報問題”について、語ってもらった。
■他のドキュメンタリーと『ザ・ノンフィクション』の違い
張江氏はかつて、NHK報道局のディレクターとして『クローズアップ現代』や『NHKスペシャル』を担当し、文化庁芸術祭やカナダ・バンフテレビ祭で優秀賞を受賞するなど報道番組の第一線で活躍した後、2005年にフジテレビへ入社。NHKのドキュメンタリーと『ザ・ノンフィクション』の違いを聞いてみると「手法が逆なんですよね」と表現した。
「NHKは王道的手法で、今の社会はこれが問題であるということを正面から切りとるドキュメンタリーを作る。それが使命ですから。でも『ノンフィクション』は、懸命に生きる人たちの人生を通して今の社会を見るという手法で、貧困や犯罪者の家族、LGBTの問題などを描いていく。手法も語り口も逆なんです。民放ですから視聴率は絶対的な基準ですし、一人でも多くの人に見ていただくため、市井の人々が悪戦苦闘しながら一生懸命に生きている姿を伝えることで、社会に訴えていきたいんです」
同じ民放局のドキュメンタリー『情熱大陸』(TBS)についても「テレビを見ている人たちが関心のある一線級の人を魅力的に描いて、本当に素晴らしい番組だと思います」と評価した上で、自身の番組との違いを分かりやすく説明してくれた。「取材対象が向こうはスター、こちらは(視聴者にとって)自分たちと共通点がありそうだと思える人。AKB48総選挙を例にすると、『情熱大陸』はまゆゆ(渡辺麻友)ですが、僕らは宮崎美穂を取材する。向こうはまゆゆや周辺の人に密着するけど、こちらは『選挙だから、選対本部の人たちも描こう』と攻めてみます。あとは、見てくださる方の好みですよね。キラキラしているスターが見たい人もいれば、リアルにもがきながら奮闘する人を見たい人もいる。住み分けはできていると思います」。
張江氏のこだわりが最も端的に表れているのが、毎回のタイトルだ。かねてから「ドキュメンタリーのタイトルは、高尚で、視聴者との距離が遠い感じがしていた」ことから、自身の番組ではキャッチーで強く響く言葉を意識している。話題となった「人殺しの息子と呼ばれて…」も、息子への申し訳なさを胸に抱えながらも、“犯罪者”ではなく、あえて“人殺し”という強烈なワードを選んだ。日本一有名なニートと言われるPha氏に密着した回も、『会社と家族にサヨナラ』にした。普通の女性が女子プロレスラーに転身する姿を追った回も、「女子プロレスの〜〜」と付けたくなるところ、女性が興味を持ってもらえるように熟考し、最終的に「追い詰められた女たち」となった。
「タイトルを決めるのは、編集内容が決まる最後に決めます。ひらめく時はすぐに浮かぶし、ダメな時はぜんぜん思いつかない。シリーズものでも工夫します。『花嫁のれん物語』という能登の老舗旅館に嫁いだ女性を密着するシリーズも、前回は『花嫁のれん物語』ではなく、『私、ツヨくなりました』にしました。参考にしているのは、電車の中吊りとかですね。せっかく良いものを作っても、見てもらえなければ意味がないですから、タイトルにはこだわります」。
■フジ情報番組スクープの舞台裏 誤報防止のため「勉強会をやっています」
「人殺しの息子と呼ばれて…」のほか、最近のフジテレビは『宮崎勤元死刑囚の肉声を初公開!事件から30年目の真実に迫る』(10月7日放送)や、今年2月に暗殺された金正男誌の最後の姿を捉えた『金正男暗殺事件の真相』(同8日放送)など、報道のスクープが続いている。
「報道や情報番組は、徹底的にリアルが求められる。いまは私たち情報制作局もニュースを取材する報道局も一生懸命に頑張っていて、連携もうまくできている。昔はいろいろありましたけど(笑)。情報制作局がいいネタを取ってきたら、報道局にも提供するとか、そういう連携ができているし、お互いに切磋琢磨することでいい流れが作れていると思います」
その一方、同局の番組ではネット上の誤った情報を鵜呑みにして伝えたり、一般男性を容疑者と間違えて報道するなど“誤報”問題の多さも指摘されている。この話題を向けると、張江氏は姿勢を正して切り出した。「ベテランから若手まで、いま必死になって『防止のためにどう改革すればいいのか』という勉強会をやっています。せっかくスクープをつかんでも、ネガティブな話題のほうが拡散されやすいですから。この前も『ザ・ノンフィクション』が7年半ぶりに視聴率10%を超えたことがYahoo!トピックスに選ばれたのですが、その直後にウチの社員が傷害容疑で逮捕されたという記事もトピックスになって、2つが並んじゃって…。本当に残念でしたね」。
視聴者が「見たい」「面白い」と思える番組を、正直に一生懸命に作る。テレビマンとして基本とも言える姿勢を徹底することで、『ザ・ノンフィクション』は支持を集めてきた。“フジテレビの良心”と言われるこの番組が、同局の反転攻勢の急先鋒となるか。長い目で期待しつつ、まずは12月に予定されている強力なラインナップを楽しみに待ちたい。
■次回(11月19日)放送「足立区 焼肉ドタンバ物語」
東京・足立区の下町に昭和の風情を残す焼肉の名店「スタミナ苑」。店主で自らを「焼肉馬鹿」と称する豊島雅信(通称マコ)さんは、幼いころの事故で手に障害がありますが、「畜生、負けてたまるか、今にみていろ、絶対に見返してやる。」負けず嫌いの根性で、焼肉の道を究めた。そんなマコさんを師に仰ぐのが、青山学院大学でフランス文学を学びながら、8年間スタミナ苑で修行してきた木原修一さん。焼肉に賭ける師匠と弟子の奮闘を追った。
■他のドキュメンタリーと『ザ・ノンフィクション』の違い
張江氏はかつて、NHK報道局のディレクターとして『クローズアップ現代』や『NHKスペシャル』を担当し、文化庁芸術祭やカナダ・バンフテレビ祭で優秀賞を受賞するなど報道番組の第一線で活躍した後、2005年にフジテレビへ入社。NHKのドキュメンタリーと『ザ・ノンフィクション』の違いを聞いてみると「手法が逆なんですよね」と表現した。
「NHKは王道的手法で、今の社会はこれが問題であるということを正面から切りとるドキュメンタリーを作る。それが使命ですから。でも『ノンフィクション』は、懸命に生きる人たちの人生を通して今の社会を見るという手法で、貧困や犯罪者の家族、LGBTの問題などを描いていく。手法も語り口も逆なんです。民放ですから視聴率は絶対的な基準ですし、一人でも多くの人に見ていただくため、市井の人々が悪戦苦闘しながら一生懸命に生きている姿を伝えることで、社会に訴えていきたいんです」
同じ民放局のドキュメンタリー『情熱大陸』(TBS)についても「テレビを見ている人たちが関心のある一線級の人を魅力的に描いて、本当に素晴らしい番組だと思います」と評価した上で、自身の番組との違いを分かりやすく説明してくれた。「取材対象が向こうはスター、こちらは(視聴者にとって)自分たちと共通点がありそうだと思える人。AKB48総選挙を例にすると、『情熱大陸』はまゆゆ(渡辺麻友)ですが、僕らは宮崎美穂を取材する。向こうはまゆゆや周辺の人に密着するけど、こちらは『選挙だから、選対本部の人たちも描こう』と攻めてみます。あとは、見てくださる方の好みですよね。キラキラしているスターが見たい人もいれば、リアルにもがきながら奮闘する人を見たい人もいる。住み分けはできていると思います」。
張江氏のこだわりが最も端的に表れているのが、毎回のタイトルだ。かねてから「ドキュメンタリーのタイトルは、高尚で、視聴者との距離が遠い感じがしていた」ことから、自身の番組ではキャッチーで強く響く言葉を意識している。話題となった「人殺しの息子と呼ばれて…」も、息子への申し訳なさを胸に抱えながらも、“犯罪者”ではなく、あえて“人殺し”という強烈なワードを選んだ。日本一有名なニートと言われるPha氏に密着した回も、『会社と家族にサヨナラ』にした。普通の女性が女子プロレスラーに転身する姿を追った回も、「女子プロレスの〜〜」と付けたくなるところ、女性が興味を持ってもらえるように熟考し、最終的に「追い詰められた女たち」となった。
「タイトルを決めるのは、編集内容が決まる最後に決めます。ひらめく時はすぐに浮かぶし、ダメな時はぜんぜん思いつかない。シリーズものでも工夫します。『花嫁のれん物語』という能登の老舗旅館に嫁いだ女性を密着するシリーズも、前回は『花嫁のれん物語』ではなく、『私、ツヨくなりました』にしました。参考にしているのは、電車の中吊りとかですね。せっかく良いものを作っても、見てもらえなければ意味がないですから、タイトルにはこだわります」。
■フジ情報番組スクープの舞台裏 誤報防止のため「勉強会をやっています」
「人殺しの息子と呼ばれて…」のほか、最近のフジテレビは『宮崎勤元死刑囚の肉声を初公開!事件から30年目の真実に迫る』(10月7日放送)や、今年2月に暗殺された金正男誌の最後の姿を捉えた『金正男暗殺事件の真相』(同8日放送)など、報道のスクープが続いている。
「報道や情報番組は、徹底的にリアルが求められる。いまは私たち情報制作局もニュースを取材する報道局も一生懸命に頑張っていて、連携もうまくできている。昔はいろいろありましたけど(笑)。情報制作局がいいネタを取ってきたら、報道局にも提供するとか、そういう連携ができているし、お互いに切磋琢磨することでいい流れが作れていると思います」
その一方、同局の番組ではネット上の誤った情報を鵜呑みにして伝えたり、一般男性を容疑者と間違えて報道するなど“誤報”問題の多さも指摘されている。この話題を向けると、張江氏は姿勢を正して切り出した。「ベテランから若手まで、いま必死になって『防止のためにどう改革すればいいのか』という勉強会をやっています。せっかくスクープをつかんでも、ネガティブな話題のほうが拡散されやすいですから。この前も『ザ・ノンフィクション』が7年半ぶりに視聴率10%を超えたことがYahoo!トピックスに選ばれたのですが、その直後にウチの社員が傷害容疑で逮捕されたという記事もトピックスになって、2つが並んじゃって…。本当に残念でしたね」。
視聴者が「見たい」「面白い」と思える番組を、正直に一生懸命に作る。テレビマンとして基本とも言える姿勢を徹底することで、『ザ・ノンフィクション』は支持を集めてきた。“フジテレビの良心”と言われるこの番組が、同局の反転攻勢の急先鋒となるか。長い目で期待しつつ、まずは12月に予定されている強力なラインナップを楽しみに待ちたい。
■次回(11月19日)放送「足立区 焼肉ドタンバ物語」
東京・足立区の下町に昭和の風情を残す焼肉の名店「スタミナ苑」。店主で自らを「焼肉馬鹿」と称する豊島雅信(通称マコ)さんは、幼いころの事故で手に障害がありますが、「畜生、負けてたまるか、今にみていろ、絶対に見返してやる。」負けず嫌いの根性で、焼肉の道を究めた。そんなマコさんを師に仰ぐのが、青山学院大学でフランス文学を学びながら、8年間スタミナ苑で修行してきた木原修一さん。焼肉に賭ける師匠と弟子の奮闘を追った。
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2017/11/18