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『黒革の手帖』羽原大介氏「悪人たちにも“五分の魂”」

 女優の武井咲(23)が主演するテレビ朝日系『黒革の手帖』(毎週木曜 後9:00)。何度も映像化されてきた松本清張の不朽の名作に挑んでいるのは、脚本家の羽原大介氏(52)。「有名な原作に取り組むプレッシャーは僕にもありました。主人公の原口元子を『黒革の手帖』史上最年少の武井さんが演じるということもすごく意識していましたし、不安がなかったといえばうそになりますが、それも取り越し苦労だったというか、武井“元子”が思っていた以上に大人だったので、いま、終盤を執筆していてとても充実感があります」と、執筆秘話を明かす。

ドラマ『黒革の手帖』第5話より。銀座の最年少ママとして実年齢以上の貫禄を見せる武井咲(C)テレビ朝日

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■武井“元子”が思っていた以上に大人だった

 羽原氏は、故・つかこうへいさんに師事し、運転手兼大部屋俳優を経て、脚本家デビュー。舞台作品の脚本・演出のほか、アニメ『ふたりはプリキュア』(2004年)などプリキュアシリーズを数作手掛けたこともあり、映画『フラガール』(06年)では日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。映画・ドラマの脚本で活躍しており、NHKの連続テレビ小説史上初となる外国人ヒロインを迎えた『マッサン』(14年)でも高く評価された。

 『黒革の手帖』は、派遣社員として勤めていた銀行から1億8千万円もの大金を横領した元子が、その金と借名口座のリストが記された“黒革の手帖”を盾に、東京・銀座に自身のクラブ「カルネ」をオープンさせ、“銀座で一番のママ”に成り上がろうとする物語。と、同時に元子に人生を狂わされる者、元子と出会ったとこで価値観が揺らいでいく者たちの群像劇でもある。

 武井主演で『黒革の手帖』がドラマ化されることが発表された時、「若すぎるのではないか」と思った人も多いだろう。04年に同局で放送された『黒革の手帖』で元子を演じた米倉涼子でさえ、当時29歳だ。武井本人も制作発表で「できるの?と、試すような目が多い気がする」と言っていたほど。しかし武井はその訝しみを「打ちのめしたいなって思っています」と意気込んでいた。

 羽原氏は、この“年齢”問題を「銀座最年少ママ」という新たな設定を加えることで乗り越えようとするのだが、「入り口としては、朝ドラで『マッサン』をやった時と同じようなハードルの高さがあったかもしれないですね。『マッサン』はヒロインが外国人という特殊性があって、初めて日本に来た外国人の気持ちをつかむまで苦労しました。今回の元子も“銀座の最年少ママ”というのが、50歳を過ぎたオッサンにとってはなかなか…(笑)。そういう気分になりにくかったというのはありましたね」。

 さらに、「結果的に取り越し苦労に終わったのですが、武井咲さんが幼く見えてしまうのではないか、という心配もありました。元子は大金を横領したり、弱みを握って人を脅したり、原作どおり、えげつないことをするわけで…。それが上滑りしてしまったらどうしようかと思っていたのですが、実際に武井さんに演じていただいた映像を見て、全くそんな心配いらなかったな、と思いました」。

 例えば、10日放送に放送された第4話、内藤理沙(28)演じる料亭「梅村」の仲居・島崎すみ江と元子のシーン。「ちゃんと仲居と銀座のママに見えるかな?と心配していたのですが、オンエアをご覧いただいたとおり。武井さんにはママの貫禄が、内藤さんには田舎から出てきた純朴さがよく出ていて。武井さんが僕の不安を払拭しておつりがくるくらい、元子として生きてくださっていて、感謝ですね」。

■それぞれの世界の底辺から社会を見る目線

 元子を取り巻く人々を演じる共演者たちの熱演も話題だ。政治家になるために“汚れ仕事”にも懸命に奔走し、いよいよ選挙に出馬する安島富夫(江口洋介)、元子が勤めていた銀行の元次長で、子会社に左遷され「給料が3分の2になった」と復讐しに来た村井亨(滝藤賢一)、コツコツ裏金を貯めて成り上がった楢林クリニックの院長・楢林謙治(奥田瑛二)、裏口入学で巨額の利益を得ている予備校の理事長・橋田常雄(高嶋政伸)、謎の政財界のフィクサー・長谷川庄治(伊東四朗)など…。

 「どの人物も、悪いことをしていたり、欲深かったり、本能のままに暴走したりして、皆、悪人かもしれないのですが、ドラマの都合で悪人然として描きたくないと思っています。それぞれに言い分があるというか、正義があるというか。5分の魂が全員にあるんです」

 村井の人生にとってはエリートコースから外れて給料が3分の2に減ってしまったことがどうしても許せない。「お前の横領で全部パーだ」というせりふ(第3話)は、村井の魂の叫び。橋田もそうだ。「真実の愛が欲しい」と言っているとおり(第4話)、彼は愛に飢えおり、裏口入学を斡旋する理由にも、彼なりの正義があることが第5話(18日放送)で明らかになる。

 「この作品に限ったことではないのですが、脚本を書くときは、生身の人間の生理的な欲求から生じる行動、発言になるように心がけています。庶民・大衆の目線で社会を見るということ。これはつかさんから学んだことでもあります。『黒革の手帖』に出てくる人たちは、皆、コンプレックスを持っていて、だからこそお金持ちになりたい、出世がしたい、と思っている。村井は、端からみたら超エリートで、3分の2に減ったとはいえ彼より年収の低い人もいるでしょう。しかし、村井のいる世界、有名大学を出てメガバンクの出世コースに乗る人たちの世界では落ちこぼれてしまった。そういうそれぞれの世界の底辺から社会を見る目線も大事にしたいと思っています」。

 羽原氏の持ち味を存分に出せる題材でもあった『黒革の手帖』。「原作が発表された1980年当時は、オンラインシステムなんてものはなかった時代ですから、横領の手口も変わりましたし、もしかしたら銀座のクラブも40年前と今とでは変わっているのかもしれません。ですが、中にいる人たちの本質はさほど変わっていないのだな、というのが発見としてありました。松本清張作品が不朽の名作と言われるゆえんというか、普遍的なものが描かれている。元子には、ますます強く、たくましく生きるエネルギーを放出し続けてもらいたいですね。それが、このドラマの牽引力。武井“元子”に負けないように僕もエネルギーを放出して、物語を書き上げたいと思います」。

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  • 貧乏で苦労したコンプレックスが元子の原動力に(C)テレビ朝日

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