5月からスタートしたaikoのホールツアー『Love Like Pop vol.19』が9月17日、東京・NHKホールでファイナルを迎えた。まるでライブハウスと見まごう熱気のなか、aikoが全身全霊で魅せて聴かせたパフォーマンスとは? 話題の映画『聲の形』主題歌も披露した、熱いライブの模様をお届けする。
◆まるでドラマのようなライブ、序盤から会場は一つに
素晴らしいライブにはドラマがある。aikoのライブにはいつもドラマがある。
この日はとりわけ、それを実感した。メドレーなしの全28曲、3時間半。みんなで胸を高鳴らせ、たくさん笑って、汗をかき、心揺さぶられ、涙腺を刺激され……。aikoと観客の個々の想い、様々な感情が場内に波のように寄せては返し、時に飲みこむほどの威力を持って、ドラマを生み出していく。この忘れがたいドラマの作り手であり、主演がaikoなのだ。
ドラマの始まりは、アルバム『May dream』の1曲目でもある「何時何分」。暗転して幕が開き、aiko が歌い出すと、会場に神聖な空気が流れた。曲が進むにつれ、エモーショナルに高ぶっていくボーカルに包み込まれたかのように、会場中が一つに結ばれる。前半からまるでクライマックスのような興奮。続く「プラマイ」は、ステージを縦横無尽に駆け回る。ストライプ柄のワンピースは、aikoが歌い踊り、くるくると回転するたびに裾から覗く赤のチュールもふわふわと踊っていて、まるで花が咲き乱れているかのよう。冒頭から、4曲目、ロックでビターな味わいの「milk」まで、なみならぬ集中力で観る者の心を奪う。
◆花道を自在に動き回るaiko、観客との恋の駆け引きのよう
1階席には花道が敷かれていて、2階席から見ても距離は近く、NHKホールがまるでライブハウスのように見える。aikoはこの花道を使うのがとても上手い。曲により、まるで恋の駆け引きをするかのように、花道を自在に使って観客との距離を縮めたり、焦らしたりする。花道から数曲離れたかと思いきや、「3階も見えているからね」と声をかけ、その言葉通り、MCで話しかけてきた3階席の観客の服装まで言い当てる。
“遠いようで案外近く、近いようで実は遠い”距離感は、aikoというアーティストの魅力、楽曲の世界観とも重なって映った。愛とサービス精神は底知れず、飾らない人だから安心して近づけるけれど、繊細さも極まっているから無作法には触れられない。その感じが、切なくて、なぜだか心地良い。
◆恒例の即興曲も披露 濃密で儚い時間はトリプルアンコールまで続く
中盤では、「信号」「もっと」「愛だけは」など、『May Dream』の収録曲のみならず、「遊園地」などライブで聴くといっそう気持ちいい、踊れる佳曲も盛り込まれ、すっかり陶酔ムードに。そして、特筆すべきはやはり、恒例の弾き語りコーナー。客席から受け取ったキーワードを使って、aikoが即興で歌を作る。本コーナーでは、いつも驚きの物語が生まれる。この日も、「遠征費用」「こち亀」など歌にするには難しいワードが多く、「どうしよう! どうしよう!」と心もとない声で呟くaiko(ちなみに、会場に来ていた南海キャンディーズの山里亮太が突如指名され、「ラジオ」というキーワードを出すというサプライズも)。しかし、客席が直前までaikoに話しかけていたにもかかわらず、ほんの3分ほどで歌い出す。ストーリーは、フラダンス教室の講師に二股かけられた女性の話。しかも、その曲がブルース調で滅多に聴けないドスのきいた声で歌い上げるから、客席からは驚きとともに、爆笑が起こる。
この即興曲、そして、久々の名曲「September」弾き語ったのを起点に、会場の熱量と集中力はますます高まったのを肌で感じた。そして、圧巻の後半へ。「好き嫌い」で少しずつギアを上げるや、「冷凍便」では熱っぽいバンドサウンドとボーカルが快感をもたらす。「帽子と水着と水平線」では、甘酸っぱい夏の匂いを感じさせる。本編は、ラストの「Loveletter」まであっという間に終了。
会場の熱気に押され、すぐに始まったアンコールの4曲は本編と地続きになっているかのようで、また素晴らしかった。映画『聲の形』主題歌である新曲「恋をしたのは」を緊張感を持って披露すると、会場に再び神聖な空気が流れる。続く「夏が帰る」にて、本編では漂っていた夏の匂いを余韻に変える。最後は、白昼夢のように鮮やかでクールなカッコ良さと祝祭感が漂う「夢見る隙間」で終幕。こんなにも濃密な愛の時間を過ごしながらも、“全部夢でした”と言わんばかりのあっけない終わり方が、儚くて美しい。それでも、その時、流したaikoの涙と、その後、トリプルまで続いて高まり続けたアンコールが、この時間は、夢ではないことを教えてくれた。
(文/芳麗)
◆まるでドラマのようなライブ、序盤から会場は一つに
素晴らしいライブにはドラマがある。aikoのライブにはいつもドラマがある。
この日はとりわけ、それを実感した。メドレーなしの全28曲、3時間半。みんなで胸を高鳴らせ、たくさん笑って、汗をかき、心揺さぶられ、涙腺を刺激され……。aikoと観客の個々の想い、様々な感情が場内に波のように寄せては返し、時に飲みこむほどの威力を持って、ドラマを生み出していく。この忘れがたいドラマの作り手であり、主演がaikoなのだ。
ドラマの始まりは、アルバム『May dream』の1曲目でもある「何時何分」。暗転して幕が開き、aiko が歌い出すと、会場に神聖な空気が流れた。曲が進むにつれ、エモーショナルに高ぶっていくボーカルに包み込まれたかのように、会場中が一つに結ばれる。前半からまるでクライマックスのような興奮。続く「プラマイ」は、ステージを縦横無尽に駆け回る。ストライプ柄のワンピースは、aikoが歌い踊り、くるくると回転するたびに裾から覗く赤のチュールもふわふわと踊っていて、まるで花が咲き乱れているかのよう。冒頭から、4曲目、ロックでビターな味わいの「milk」まで、なみならぬ集中力で観る者の心を奪う。
◆花道を自在に動き回るaiko、観客との恋の駆け引きのよう
1階席には花道が敷かれていて、2階席から見ても距離は近く、NHKホールがまるでライブハウスのように見える。aikoはこの花道を使うのがとても上手い。曲により、まるで恋の駆け引きをするかのように、花道を自在に使って観客との距離を縮めたり、焦らしたりする。花道から数曲離れたかと思いきや、「3階も見えているからね」と声をかけ、その言葉通り、MCで話しかけてきた3階席の観客の服装まで言い当てる。
“遠いようで案外近く、近いようで実は遠い”距離感は、aikoというアーティストの魅力、楽曲の世界観とも重なって映った。愛とサービス精神は底知れず、飾らない人だから安心して近づけるけれど、繊細さも極まっているから無作法には触れられない。その感じが、切なくて、なぜだか心地良い。
◆恒例の即興曲も披露 濃密で儚い時間はトリプルアンコールまで続く
中盤では、「信号」「もっと」「愛だけは」など、『May Dream』の収録曲のみならず、「遊園地」などライブで聴くといっそう気持ちいい、踊れる佳曲も盛り込まれ、すっかり陶酔ムードに。そして、特筆すべきはやはり、恒例の弾き語りコーナー。客席から受け取ったキーワードを使って、aikoが即興で歌を作る。本コーナーでは、いつも驚きの物語が生まれる。この日も、「遠征費用」「こち亀」など歌にするには難しいワードが多く、「どうしよう! どうしよう!」と心もとない声で呟くaiko(ちなみに、会場に来ていた南海キャンディーズの山里亮太が突如指名され、「ラジオ」というキーワードを出すというサプライズも)。しかし、客席が直前までaikoに話しかけていたにもかかわらず、ほんの3分ほどで歌い出す。ストーリーは、フラダンス教室の講師に二股かけられた女性の話。しかも、その曲がブルース調で滅多に聴けないドスのきいた声で歌い上げるから、客席からは驚きとともに、爆笑が起こる。
この即興曲、そして、久々の名曲「September」弾き語ったのを起点に、会場の熱量と集中力はますます高まったのを肌で感じた。そして、圧巻の後半へ。「好き嫌い」で少しずつギアを上げるや、「冷凍便」では熱っぽいバンドサウンドとボーカルが快感をもたらす。「帽子と水着と水平線」では、甘酸っぱい夏の匂いを感じさせる。本編は、ラストの「Loveletter」まであっという間に終了。
会場の熱気に押され、すぐに始まったアンコールの4曲は本編と地続きになっているかのようで、また素晴らしかった。映画『聲の形』主題歌である新曲「恋をしたのは」を緊張感を持って披露すると、会場に再び神聖な空気が流れる。続く「夏が帰る」にて、本編では漂っていた夏の匂いを余韻に変える。最後は、白昼夢のように鮮やかでクールなカッコ良さと祝祭感が漂う「夢見る隙間」で終幕。こんなにも濃密な愛の時間を過ごしながらも、“全部夢でした”と言わんばかりのあっけない終わり方が、儚くて美しい。それでも、その時、流したaikoの涙と、その後、トリプルまで続いて高まり続けたアンコールが、この時間は、夢ではないことを教えてくれた。
(文/芳麗)
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2016/09/30