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2016年洋画シーン、ヒット続出の昨年から一転して厳しいスタート

 先日発表された米アカデミー賞は、久しぶりに洋画の話題を盛り上げてくれた。ただ少し辛辣に言えば、日本でも知名度の高いレオナルド・ディカプリオの主演男優賞受賞がなかったら、どうなったかわからない。洋画は話題を探すのが難しいのである。ところで、話題性云々の前に、今年に入って公開された洋画の興行が、軒並み厳しい結果になっている。『ブリッジ・オブ・スパイ』『パディントン』『白鯨との闘い』『ザ・ウォーク』『ブラック・スキャンダル』『X‐ミッション』『ザ・ブリザード』といった作品である。例外は、興収30億円を超えたばかりの『オデッセイ』だけだ。

洋画シーンに見られる“極大化と極小化”現象とは?『オデッセイ』は興収30億円を超える大ヒットになった

洋画シーンに見られる“極大化と極小化”現象とは?『オデッセイ』は興収30億円を超える大ヒットになった

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◆5億円に届かない作品も…大規模公開作の厳しい興行

 今挙げた作品は、200スクリーン以上の大きな公開規模を誇り、高額な宣伝費が投入されている。多くの作品は質的に高いものばかりだ。にもかかわらず、興行が振るわない。その振るわなさが半端ない。7作品中、現時点(3月上旬)で興収5億円に届いていない作品が、何と5本もある。

 5億円は超えた『ブリッジ〜』と『パディントン』(これだけが英国映画であとは米映画)にして、高額な宣伝費から換算した目標値に届いていない。ハリウッドの娯楽大作ともなれば、10億円上がっても収支が合わないケースが多い。なのに、そのレベルが今ではさらに下がり、5億円以下ということになった。

 その数字の意味は、100スクリーン以下の限定公開規模、いわゆる単館拡大興行の作品レベル近くまで、ハリウッドの洋画大作が市場のパイを縮めてきたことを示す。もはや、これは中身、宣伝云々を超え、洋画への関心の度合いの問題である。その低下傾向が、長引く洋画不況のレベルを一段と下げている。

◆これから洋画不況に影響されない強力シリーズ作品も登場

 ただ、ここでひとつ指摘しておきたい。洋画のヒットが続出した昨年に顕著だったように、洋画全般が低調ではないということだ。実際、洋画の強力シリーズものは、洋画不況などどこ吹く風といった体で、大ヒットしている。今年は、現時点でそれらの作品が1本も公開されていないだけだ

 ここから、ある傾向が読み取れる。洋画興行における極大化と極小化の現象である。強力シリーズものは、極大化=大ヒットする。だが、そうではない娯楽大作などは、極小化=単館拡大的な興行レベルにまで落ち、両者の“興行格差”が膨大に広がってきた。

 今年は、前作が興収100億円を超えたシリーズの新作が、夏に3本も登場する。『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』『ファインディング・ドリー』『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』である。これに『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『デッドプール』『ゴーストバスターズ』などを加えれば、今年の洋画もなかなかに壮観なのがわかる。

◆極大化と極小化の傾向が進む洋画興行への懸念

 それらの成果が上がり、数字的に良ければ、何ら問題がないと考える人が出てきても不思議ではない。ただ少し見方を変えれば、恐ろしいことになる。洋画興行の内実が、極大化と極小化の傾向に進めば、シリーズものではないクオリティの高い娯楽大作や良心的な人間ドラマは、どんどん片隅に追いやられることになろう。

 片隅に追いやられるとは、上映されなくなっていくということである。そうなると、どうなるか。数は減ったが、いまだ健在の本来の洋画ファンが、映画を見限っていくだろう。この洋画ファンは、古くから観てきた人々が多い。1年に何回も映画を観る、いわゆるヘビーユーザーだ。この層が洋画を見限ってくると、今の5億円が半分、さらに3分の1にもなりかねない。

 映画=洋画は、娯楽と文化で成り立っている。知名度が存分にあり、派手な装いの作品ばかりが大手を振っていては、洋画に未来はない。配給会社も、成果が出なければ、ヒットが出やすい極大化作品のみに配給の姿勢を限定化していくことだろう。こうなると、洋画の大切な部分が壊滅していく。これが怖い。

 洋画文化を守るために配給側のなすべきことは多い。諦めないことである。戦略を細心に練ることである。観客側の問題は簡単には述べられないので、ここでは省く。とにもかくにも、世界の情勢、文化などを広範囲に知ることができる多彩な魅力が詰まった洋画という巨大な文化装置を何としても手放してはいけないと、私は心底、本気で思っているのである。
(文:映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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