「裏切り、調略は世のならい。時代に翻弄される悲哀を感じられると思います」と話すのは、俳優の前川泰之(42)。NHK大河ドラマ『真田丸』(毎週日曜 後8:00 総合ほか)で、元は武田家の家臣、いまは上杉家に仕える春日信達(かすが・のぶたつ)を演じる。28日放送の第8回は彼が“主役”だ。
「日の本一の兵」と呼ばれ、現代においても人気の武将・真田幸村こと信繁の生涯を俳優の堺雅人主演で描く本作。若き日の信繁はしくじることもしばしば。人質となっていた姉・松(木村佳乃)に続いて、祖母・とり(草笛光子)の奪回にも失敗し落ち込む信繁に、父・昌幸(草刈正雄)は密命を与える。
それは、昌幸の弟・信尹(栗原英雄)の指図に従い、信達を調略して北条に寝返らせるという任務だ。信繁は憧れていた叔父・信尹のもとで「調略とは何か、学ばせてください」と目を輝かせる。その言葉が意味する時代の真実をよく理解せぬままに…。
真田家から調略のターゲットにされてしまう春日信達は、武田信玄を支えた重臣で海津城(後の松代城)主だった春日虎綱(高坂弾正)の息子。これまで戦国・歴史ドラマでクローズアップされることはほとんどなかった。武田が滅び、その後仕えた織田が信濃から撤退し、途方に暮れていたときに景勝に拾われて上杉家中となる。景勝に恩義を感じているが、上杉家での処遇には秘めた思いがあった。この信達の葛藤が、昌幸・信尹が調略を仕掛ける糸口となる。
前川は「いままでは、真田家の家族を中心に話が進んできましたが、ここへきて信繁は戦国時代の大きな現実を知ることになります。結果的に信達を罠にはめた、それに加担したことが、後々の信繁に大きな影響を与えていく。主人公の人生のターニングポイントにかかわる人物の役をいただけてうれしかったですし、それなりのプレッシャーを感じながら現場に行かせてもらいました」と、第8回だけのワンポイント出演であるにも関わらず(第7回は顔見せの1カットのみ)、並々ならぬ気合が入っていた。
前川の台本の余白という余白には文字が書き込まれ、紙はクタクタ。何度も読み返していたことが伺える。「僕は台本にいろいろ書きこむタイプなんです。信達としての心情を書き出してみたり、時代の流れや人間関係を整理してみたり、思いついたことを書き留めておく。それで気が済んでしまうこともあるのですが(笑)」と役作りの一端を明かす。作品全体を貫く大きなテーマを背負った人物を演じることへの気概もあったが、それ以上に脚本家・三谷幸喜氏の期待に応えたいという思いもあったのだろう。
春日信達役に前川を推したのはほかならぬ三谷氏。前川はこれまで三谷作品に全く縁がなく「三谷さんから名前を出していただいたと聞いて、鳥肌が立ちました。いつどこで僕の芝居を見てくれていたんだろう?と、不思議に思ったくらい。お会いしたこともないんです。でも、うれしかったです」。
この回の演出を担当する田中正監督から聞いた話として「最初、三谷さんはゴリラっぽい人がいいと言っていたらしいんです。それで僕?(笑)。ひげをつけてそれなりの格好をするとゴリラっぽくみえなくもなかったのですが、無骨だけれど、哀しみを背負った感じが出せる人がいいとおっしゃっていたそうで。三谷さん曰く、僕は哀しい感じがするみたいです」。
前川は186センチの長身を生かしてファッションモデルとして活躍し、2005年に俳優に転身。映画、ドラマ、舞台などで活躍し、07年の大河ドラマ『風林火山』にも出演している。最も印象深いのは、13年の大ヒットドラマ『半沢直樹』(NHK)で大和田常務に利用された“タミヤ電気の社長”役。昨年、NHKで放送された『美女と男子』でも、独立して開いた芸能事務所を乗っ取られ、ヒロインにも振られる役どころを好演していた。『真田丸』で演じる春日信達もまた、哀しくて切ない不遇な男の極みだ。
「皆さんの印象に残るのは、哀しくて切ない、不遇の人の役が多いかもしれないですね。喜怒哀楽の中では哀の芝居がしっくりくるというか。僕自身は決して不遇ではないと思っていますが、役との共通点も探しやすい感じはします。そういうところから役者としての道筋みたいなものを見つけられたらいいなとも思います。感情を爆発させる役も面白いけど、何かを背負って、内に秘めている人のほうが演じがいもあるし、わりと好きかもしれません」
信達の年齢は不詳だが、劇中では信繁の父・昌幸と「何度も戦場で共に戦った仲」というせりふがあり、この時16歳だった信繁から見ればかなりの年上の大人。実は、前川と堺は同い年なのだが、絶妙な年の差感を醸し出す二人の芝居も見応えがある。
「『半沢』の時はまったく絡みがなかったので、打ち上げの席で『初めまして』とあいさつしたくらいでした。今回は、がっつり一緒にお芝居ができて楽しかったですね。同い年だと言ったら堺さん、すごくびっくりされて。年上だと思っていたと言われました(笑)。信達の役作りや細かい所作についてもいろいろ相談に乗ってくれて、助けてもらって、信達の人間性を広げてもらいました。監督と堺さんには感謝しています」。
「日の本一の兵」と呼ばれ、現代においても人気の武将・真田幸村こと信繁の生涯を俳優の堺雅人主演で描く本作。若き日の信繁はしくじることもしばしば。人質となっていた姉・松(木村佳乃)に続いて、祖母・とり(草笛光子)の奪回にも失敗し落ち込む信繁に、父・昌幸(草刈正雄)は密命を与える。
それは、昌幸の弟・信尹(栗原英雄)の指図に従い、信達を調略して北条に寝返らせるという任務だ。信繁は憧れていた叔父・信尹のもとで「調略とは何か、学ばせてください」と目を輝かせる。その言葉が意味する時代の真実をよく理解せぬままに…。
真田家から調略のターゲットにされてしまう春日信達は、武田信玄を支えた重臣で海津城(後の松代城)主だった春日虎綱(高坂弾正)の息子。これまで戦国・歴史ドラマでクローズアップされることはほとんどなかった。武田が滅び、その後仕えた織田が信濃から撤退し、途方に暮れていたときに景勝に拾われて上杉家中となる。景勝に恩義を感じているが、上杉家での処遇には秘めた思いがあった。この信達の葛藤が、昌幸・信尹が調略を仕掛ける糸口となる。
前川は「いままでは、真田家の家族を中心に話が進んできましたが、ここへきて信繁は戦国時代の大きな現実を知ることになります。結果的に信達を罠にはめた、それに加担したことが、後々の信繁に大きな影響を与えていく。主人公の人生のターニングポイントにかかわる人物の役をいただけてうれしかったですし、それなりのプレッシャーを感じながら現場に行かせてもらいました」と、第8回だけのワンポイント出演であるにも関わらず(第7回は顔見せの1カットのみ)、並々ならぬ気合が入っていた。
前川の台本の余白という余白には文字が書き込まれ、紙はクタクタ。何度も読み返していたことが伺える。「僕は台本にいろいろ書きこむタイプなんです。信達としての心情を書き出してみたり、時代の流れや人間関係を整理してみたり、思いついたことを書き留めておく。それで気が済んでしまうこともあるのですが(笑)」と役作りの一端を明かす。作品全体を貫く大きなテーマを背負った人物を演じることへの気概もあったが、それ以上に脚本家・三谷幸喜氏の期待に応えたいという思いもあったのだろう。
春日信達役に前川を推したのはほかならぬ三谷氏。前川はこれまで三谷作品に全く縁がなく「三谷さんから名前を出していただいたと聞いて、鳥肌が立ちました。いつどこで僕の芝居を見てくれていたんだろう?と、不思議に思ったくらい。お会いしたこともないんです。でも、うれしかったです」。
この回の演出を担当する田中正監督から聞いた話として「最初、三谷さんはゴリラっぽい人がいいと言っていたらしいんです。それで僕?(笑)。ひげをつけてそれなりの格好をするとゴリラっぽくみえなくもなかったのですが、無骨だけれど、哀しみを背負った感じが出せる人がいいとおっしゃっていたそうで。三谷さん曰く、僕は哀しい感じがするみたいです」。
前川は186センチの長身を生かしてファッションモデルとして活躍し、2005年に俳優に転身。映画、ドラマ、舞台などで活躍し、07年の大河ドラマ『風林火山』にも出演している。最も印象深いのは、13年の大ヒットドラマ『半沢直樹』(NHK)で大和田常務に利用された“タミヤ電気の社長”役。昨年、NHKで放送された『美女と男子』でも、独立して開いた芸能事務所を乗っ取られ、ヒロインにも振られる役どころを好演していた。『真田丸』で演じる春日信達もまた、哀しくて切ない不遇な男の極みだ。
「皆さんの印象に残るのは、哀しくて切ない、不遇の人の役が多いかもしれないですね。喜怒哀楽の中では哀の芝居がしっくりくるというか。僕自身は決して不遇ではないと思っていますが、役との共通点も探しやすい感じはします。そういうところから役者としての道筋みたいなものを見つけられたらいいなとも思います。感情を爆発させる役も面白いけど、何かを背負って、内に秘めている人のほうが演じがいもあるし、わりと好きかもしれません」
信達の年齢は不詳だが、劇中では信繁の父・昌幸と「何度も戦場で共に戦った仲」というせりふがあり、この時16歳だった信繁から見ればかなりの年上の大人。実は、前川と堺は同い年なのだが、絶妙な年の差感を醸し出す二人の芝居も見応えがある。
「『半沢』の時はまったく絡みがなかったので、打ち上げの席で『初めまして』とあいさつしたくらいでした。今回は、がっつり一緒にお芝居ができて楽しかったですね。同い年だと言ったら堺さん、すごくびっくりされて。年上だと思っていたと言われました(笑)。信達の役作りや細かい所作についてもいろいろ相談に乗ってくれて、助けてもらって、信達の人間性を広げてもらいました。監督と堺さんには感謝しています」。
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2016/02/26