初回視聴率が12.4%と好スタートを切ったドラマ『コウノドリ』(TBS系)は、単独では初主演になる綾野剛の高評価もさることながら、ドラマ自体のヒューマンなテーマ設定や、リアルな出産現場が話題を呼んでいる。特に出産経験のある女性たちの共感を得ているようで、「出産を思い出して号泣した」「旦那に見せたい」と称賛されている。今や「将来は助産師になりたい」と言う視聴者さえ増えている、『コウノドリ』に迫ってみたい。
◆徹底的に“リアリティ”を追求している制作側の姿勢で高評価
『コウノドリ』は、『週刊モーニング』(講談社)に連載中の鈴ノ木ユウ作の同名漫画が原作。単行本の累計部数150万部を誇る人気作品で、産婦人科医療の現場を描くという、男性誌の中では異色の設定になっている。主人公・鴻鳥サクラを綾野剛が演じているのだが、そのルックスが瓜ふたつで、綾野のチリチリヘアも原作にハマリまくりだと評判も高い。そうした原作との違和感のなさもファンからの好感を得ているようだが、やはり特筆すべきは、徹底的に“リアリティ”を追求している制作側の姿勢だろう。
生後間もない新生児であり、未熟児の赤ちゃんまで登場する。これまでのドラマであれば、生後間もない設定であっても、あきらかに首の座った生後2、3ヶ月ぐらいの赤ちゃんが登場し、視聴者も多少の違和感を持つというのがお約束だった。ましてや、生後1ヶ月ぐらいは外出を控えるべきという“常識”もあるなか、本作は産婦人科医の指導のもと、スタッフは全員マスクをする、赤ちゃんの出演は本番のみにするなど、万全な配慮をしていると番組の公式サイトでも公開している。そのほか、各放送回の内容に関しても丹念な取材の跡が見られ、施術シーンなども医療指導の専門家がモニターに釘付けになってチェックするなど、制作側の本気度はすごい。
ドラマの内容も実にリアルで、産科検診を受けていない、いわゆる“未受診妊婦”の問題や、交通事故に遭った妊婦を前に母体と胎児の二者択一を迫られるなど、妊娠・出産のリスクやアクシデントから現場スタッフの葛藤まで、産婦人科医療に関する社会的問題も絡めてけっこうシリアスに描き出されていく。妊婦にとって感染症はリスクが高く、妊娠中に風疹感染すると胎児に悪影響を与えることが知られているが、第3話ではこの「先天性風疹症候群」をテーマとし、主演の綾野剛が、風疹の予防接種を呼びかけるリーフレットを実際に塩崎恭久厚労相に手渡したりもしているのだ。そんな妊婦への啓蒙活動にひと役買っているところも、ドラマの本気度がうかがえ、視聴者の高評価にもつながっているのかもしれない。
◆出産シーンの“リアルさ”を徹底的に追及
こうしてみると『コウノドリ』の人気の理由のひとつとして、本物の新生児を登場させるなど、出産シーンの“リアルさ”を徹底的に追及したことがあげられそうだ。逆に言えば、今までのドラマが出産シーンの描写に関しては、あまり真剣に向き合ってこなかったということなのかもしれない。出産シーンのあるドラマは数多いが、ほとんどがパターン化されている。女優は一様に痛がる演技をし、赤ちゃんは人形だったり、人形ではなくても新生児ではなかったり、場合によっては、分娩室外の廊下で泣き声だけが聞こえるというもの。
『3年B組金八先生』(TBS系 1980年)でも、杉田かおるが15歳で出産する役を演じ、「助けて!お母さん」と叫ぶ迫真の演技が話題になったが、赤ちゃんはやはり生後数ヶ月だった。NHK朝の連続テレビ小説『まれ』の土屋太鳳が双子を産むシーンでは、“いきみ逃がし”にゴルフボールを使用するという“リアリティ”が評価もされたが、それ以上に「双子はあんなに楽ではない」「双子はリスキーだから、帝王切開が基本」と“リアルではない”という意見が多かった。NHKの朝ドラでは、これまでも出産シーンが定番のように登場してきた。『ファイト!』(2005年)では、臨月なのにうつ伏せになり、うつ伏せの半立ちで出産したりするなど、実際にはあり得ない動作が指摘され、リアリティに関しては疑問が呈されてきた。
本作のような医療ドラマで言えば、産婦人科を舞台にした『ギネ』(日本テレビ系 2009年)は、主人公の産婦人科医・藤原紀香の過剰なやりすぎの演技に、視聴者からもブーイングが起きた。ドラマの内容にしても、「医療現場を知らなさすぎ」と酷評され、あげくの果てには、産婦人科のイメージを落とすとまで言われた。
そうした意味では、今回の『コウノドリ』は、原作者が妻の出産に立ち会い、実際に現場で感動したことから作品が生まれという。まさに折り紙付きのリアリティを持つ正真正銘の医療ヒューマンドラマなのである。そしてそのリアリティを制作側が専門家と一緒にきちんと検証し、登場する赤ちゃんには医療的な配慮もするという、徹底的に誠実な取り組みに恵まれた作品でもある。そうした丁寧で細やかなドラマ作りが、『コウノドリ』の最大の強みであり、また人気の秘密だと思われる。少子高齢化も叫ばれる今、このドラマはいろいろな問題提起をも含んでいるようだ。
(文:五目舎)
◆徹底的に“リアリティ”を追求している制作側の姿勢で高評価
『コウノドリ』は、『週刊モーニング』(講談社)に連載中の鈴ノ木ユウ作の同名漫画が原作。単行本の累計部数150万部を誇る人気作品で、産婦人科医療の現場を描くという、男性誌の中では異色の設定になっている。主人公・鴻鳥サクラを綾野剛が演じているのだが、そのルックスが瓜ふたつで、綾野のチリチリヘアも原作にハマリまくりだと評判も高い。そうした原作との違和感のなさもファンからの好感を得ているようだが、やはり特筆すべきは、徹底的に“リアリティ”を追求している制作側の姿勢だろう。
生後間もない新生児であり、未熟児の赤ちゃんまで登場する。これまでのドラマであれば、生後間もない設定であっても、あきらかに首の座った生後2、3ヶ月ぐらいの赤ちゃんが登場し、視聴者も多少の違和感を持つというのがお約束だった。ましてや、生後1ヶ月ぐらいは外出を控えるべきという“常識”もあるなか、本作は産婦人科医の指導のもと、スタッフは全員マスクをする、赤ちゃんの出演は本番のみにするなど、万全な配慮をしていると番組の公式サイトでも公開している。そのほか、各放送回の内容に関しても丹念な取材の跡が見られ、施術シーンなども医療指導の専門家がモニターに釘付けになってチェックするなど、制作側の本気度はすごい。
ドラマの内容も実にリアルで、産科検診を受けていない、いわゆる“未受診妊婦”の問題や、交通事故に遭った妊婦を前に母体と胎児の二者択一を迫られるなど、妊娠・出産のリスクやアクシデントから現場スタッフの葛藤まで、産婦人科医療に関する社会的問題も絡めてけっこうシリアスに描き出されていく。妊婦にとって感染症はリスクが高く、妊娠中に風疹感染すると胎児に悪影響を与えることが知られているが、第3話ではこの「先天性風疹症候群」をテーマとし、主演の綾野剛が、風疹の予防接種を呼びかけるリーフレットを実際に塩崎恭久厚労相に手渡したりもしているのだ。そんな妊婦への啓蒙活動にひと役買っているところも、ドラマの本気度がうかがえ、視聴者の高評価にもつながっているのかもしれない。
◆出産シーンの“リアルさ”を徹底的に追及
こうしてみると『コウノドリ』の人気の理由のひとつとして、本物の新生児を登場させるなど、出産シーンの“リアルさ”を徹底的に追及したことがあげられそうだ。逆に言えば、今までのドラマが出産シーンの描写に関しては、あまり真剣に向き合ってこなかったということなのかもしれない。出産シーンのあるドラマは数多いが、ほとんどがパターン化されている。女優は一様に痛がる演技をし、赤ちゃんは人形だったり、人形ではなくても新生児ではなかったり、場合によっては、分娩室外の廊下で泣き声だけが聞こえるというもの。
『3年B組金八先生』(TBS系 1980年)でも、杉田かおるが15歳で出産する役を演じ、「助けて!お母さん」と叫ぶ迫真の演技が話題になったが、赤ちゃんはやはり生後数ヶ月だった。NHK朝の連続テレビ小説『まれ』の土屋太鳳が双子を産むシーンでは、“いきみ逃がし”にゴルフボールを使用するという“リアリティ”が評価もされたが、それ以上に「双子はあんなに楽ではない」「双子はリスキーだから、帝王切開が基本」と“リアルではない”という意見が多かった。NHKの朝ドラでは、これまでも出産シーンが定番のように登場してきた。『ファイト!』(2005年)では、臨月なのにうつ伏せになり、うつ伏せの半立ちで出産したりするなど、実際にはあり得ない動作が指摘され、リアリティに関しては疑問が呈されてきた。
本作のような医療ドラマで言えば、産婦人科を舞台にした『ギネ』(日本テレビ系 2009年)は、主人公の産婦人科医・藤原紀香の過剰なやりすぎの演技に、視聴者からもブーイングが起きた。ドラマの内容にしても、「医療現場を知らなさすぎ」と酷評され、あげくの果てには、産婦人科のイメージを落とすとまで言われた。
そうした意味では、今回の『コウノドリ』は、原作者が妻の出産に立ち会い、実際に現場で感動したことから作品が生まれという。まさに折り紙付きのリアリティを持つ正真正銘の医療ヒューマンドラマなのである。そしてそのリアリティを制作側が専門家と一緒にきちんと検証し、登場する赤ちゃんには医療的な配慮もするという、徹底的に誠実な取り組みに恵まれた作品でもある。そうした丁寧で細やかなドラマ作りが、『コウノドリ』の最大の強みであり、また人気の秘密だと思われる。少子高齢化も叫ばれる今、このドラマはいろいろな問題提起をも含んでいるようだ。
(文:五目舎)
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2015/11/28