近年はジャズアルバムの発売やニューヨークの老舗ジャズクラブ・バードランドでのライブ、さらにはメタルフェス出演や学園祭出演、アニソン歌唱など、ジャンルや世代を越えて幅広い活動を行っている演歌歌手・八代亜紀。歌手生活45周年の大御所ながらも気さくな人柄で、演歌・歌謡ファンはもちろん、若者にもその魅力が浸透している。28日に発売されたブルースアルバム『哀歌 -aiuta-』はプロデューサーに寺岡呼人を迎え、THE BAWDIESや横山 剣(クレイジーケンバンド)、中村 中ら若い才能が集結。実際、若者と接することについてはどう考えているのだろうか?
■今は哀しみを知らない人が多い
――最新アルバム『哀歌 -aiuta-』は、和洋の楽曲を集めたブルース作品になりました。
【八代亜紀】 2012年にジャズアルバム(『夜のアルバム』)をリリースしたことで、もっと根底的な音楽をやってみたい気持ちになったんですね。そもそも私は以前からずっと、浪曲は日本のブルースだということを言い続けてきました。日本のつらくて過酷な環境のなかから生まれてきた哀しい歌。それがだんだんたくさんの人に向けられるようになって、流行歌になっていくんですけど、ブルースもこの流れと一緒だなと。今回、7月にアメリカのメンフィスに行って本場のブルースを勉強してきたのね。そしたらやっぱり、ジャズもロックンロールも、源流はブルースだってことを改めて教えられて。
――今作『哀歌 -aiuta-』の制作にあたって、寺岡呼人さんをプロデューサーに招いたのはなぜなのでしょうか。
【八代】 スタッフのみんなと誰にプロデュースをお願いしようか話し合いまして、寺岡さんの名前が上がったんです。それで私が「いいですね!」となって、初めてお会いしたのが最初ですね。ブルースというと、どこか年老いた印象があるじゃない。そこに寺岡さんのようなそこまで若くもない、けど老いているわけでもない方の感覚が入ると、楽しい作品になるんじゃないかと思ったの。彼はロックの人ですけど、もちろんブルースにも並々ならぬ情熱をお持ちということで、喜んで引き受けてくださいました。
――選曲はどのように?
【八代】 日本の曲は私が選びました。それを寺岡さんにブルースにしていただいて。あとはアメリカの名曲もみなさんと話し合って決めました。そこからさらに3組のミュージシャンにオリジナルを作ってもらいました。寺岡さんにご紹介いただいて、私からは「とことん暗くて哀しい歌」とお願いして。ブルースは元々、極限のつらさのなかで「頑張ろう」と歌ったものですから。
――ここで言う「哀しみ」とは、どんなことなのでしょうか。
【八代】 私が思うに、今は哀しみを知らない人が多いのね。私たちの時代は貧しくて、親が遊んでくれた経験とかがないような時代でした。だからブルースで歌われるような、夕げを囲んだときのうれしさとか幸せとかがわかるんです。でも今はその幸せを知らないし、それをつらいとも思わない。なぜなら知らないから。だからあえて哀しい歌を歌いたいと思ったんです。哀しみを知らない人たちがこのつらい歌を聴いて、世の中にこんな人生があるの? なら自分はどうなんだろう? と考えてくれればうれしいですね。
■今は音楽をジャンルわけしすぎている でもそういう時代
――今回、横山さん、中村さんもそうですが、THE BAWDIESの参加には驚きました。
【八代】 スタジオで一緒になったときに、彼らが私に「今回はありがとうございます!」と挨拶してくれたの。私からも「こちらこそ」と改めてお礼を言ったら、「やべぇ」とか言ってね。可愛かったですよ、あの子たち。
――八代さんは最近、学園祭や音楽フェスへの出演も積極的ですが、こうした若い世代との交流はいかがですか?
【八代】 音楽フェスに出演すると若者が何万人もいて、「亜紀ちゃんかわいいー」「生八代だ」「八代亜紀かっけぇ」とか言ってくれるんですよ。やっぱりこんなふうに扱ってもらえるとうれしいですよね。私のステージに帰ったらファンのみなさんに報告するんです。私のファンは40〜70代が大半ですから、「かっけぇ」って「カッコいい」って意味なんだよと若者語を教えてあげるとすごく盛り上がるのね(笑)。
――歌謡やポップスなどの音楽ジャンルを飛び越えて、純粋に音楽を聴く若者が増えてきたのでしょうか?
【八代】 音楽はもともと自由ですからね。ついさっきまで「イエーイ」と言っていた何万人の若者たちが、「舟唄」が始まったとたんにシーンとひと言も口をきかなくなるのは、すごく素敵なことだと思いますね。私の場合って、なぜ昭和歌謡が涙出るかっていうと、父なんですよ。親がギター弾いて歌ってくれたりしたものが、よみがえってくるわけですよ。懐かしさと、愛しさと、愛が。そういうものが今あるかなって。それがないと、不幸かなっていう気がするんです。私が音楽について懸念しているところはそこなの。親から受け継いで、自分が年をとったときによみがえる――それが薄れてきていて心配しちゃう。ジャンルわけしすぎちゃってるからね。でもそれは時代だから。
――歌手生活45年。こうして目を輝かせて新しいことに挑戦されている八代さんに、失礼ながら感動させていただいています。
【八代】 やっぱり歌が好き。みんなに喜んでもらって、そのテンションの上がった顔を見るのが好きなんですよ。いつまでも元気を出させてあげようっていう立場の側にいたいのね(笑)。そういう明るいリアクションを見ると、生きてる実感がするし、ああ、私はシンガーなんだなって感じます。
(文/西原史顕)
■今は哀しみを知らない人が多い
――最新アルバム『哀歌 -aiuta-』は、和洋の楽曲を集めたブルース作品になりました。
【八代亜紀】 2012年にジャズアルバム(『夜のアルバム』)をリリースしたことで、もっと根底的な音楽をやってみたい気持ちになったんですね。そもそも私は以前からずっと、浪曲は日本のブルースだということを言い続けてきました。日本のつらくて過酷な環境のなかから生まれてきた哀しい歌。それがだんだんたくさんの人に向けられるようになって、流行歌になっていくんですけど、ブルースもこの流れと一緒だなと。今回、7月にアメリカのメンフィスに行って本場のブルースを勉強してきたのね。そしたらやっぱり、ジャズもロックンロールも、源流はブルースだってことを改めて教えられて。
――今作『哀歌 -aiuta-』の制作にあたって、寺岡呼人さんをプロデューサーに招いたのはなぜなのでしょうか。
【八代】 スタッフのみんなと誰にプロデュースをお願いしようか話し合いまして、寺岡さんの名前が上がったんです。それで私が「いいですね!」となって、初めてお会いしたのが最初ですね。ブルースというと、どこか年老いた印象があるじゃない。そこに寺岡さんのようなそこまで若くもない、けど老いているわけでもない方の感覚が入ると、楽しい作品になるんじゃないかと思ったの。彼はロックの人ですけど、もちろんブルースにも並々ならぬ情熱をお持ちということで、喜んで引き受けてくださいました。
――選曲はどのように?
【八代】 日本の曲は私が選びました。それを寺岡さんにブルースにしていただいて。あとはアメリカの名曲もみなさんと話し合って決めました。そこからさらに3組のミュージシャンにオリジナルを作ってもらいました。寺岡さんにご紹介いただいて、私からは「とことん暗くて哀しい歌」とお願いして。ブルースは元々、極限のつらさのなかで「頑張ろう」と歌ったものですから。
――ここで言う「哀しみ」とは、どんなことなのでしょうか。
【八代】 私が思うに、今は哀しみを知らない人が多いのね。私たちの時代は貧しくて、親が遊んでくれた経験とかがないような時代でした。だからブルースで歌われるような、夕げを囲んだときのうれしさとか幸せとかがわかるんです。でも今はその幸せを知らないし、それをつらいとも思わない。なぜなら知らないから。だからあえて哀しい歌を歌いたいと思ったんです。哀しみを知らない人たちがこのつらい歌を聴いて、世の中にこんな人生があるの? なら自分はどうなんだろう? と考えてくれればうれしいですね。
■今は音楽をジャンルわけしすぎている でもそういう時代
――今回、横山さん、中村さんもそうですが、THE BAWDIESの参加には驚きました。
【八代】 スタジオで一緒になったときに、彼らが私に「今回はありがとうございます!」と挨拶してくれたの。私からも「こちらこそ」と改めてお礼を言ったら、「やべぇ」とか言ってね。可愛かったですよ、あの子たち。
――八代さんは最近、学園祭や音楽フェスへの出演も積極的ですが、こうした若い世代との交流はいかがですか?
【八代】 音楽フェスに出演すると若者が何万人もいて、「亜紀ちゃんかわいいー」「生八代だ」「八代亜紀かっけぇ」とか言ってくれるんですよ。やっぱりこんなふうに扱ってもらえるとうれしいですよね。私のステージに帰ったらファンのみなさんに報告するんです。私のファンは40〜70代が大半ですから、「かっけぇ」って「カッコいい」って意味なんだよと若者語を教えてあげるとすごく盛り上がるのね(笑)。
――歌謡やポップスなどの音楽ジャンルを飛び越えて、純粋に音楽を聴く若者が増えてきたのでしょうか?
【八代】 音楽はもともと自由ですからね。ついさっきまで「イエーイ」と言っていた何万人の若者たちが、「舟唄」が始まったとたんにシーンとひと言も口をきかなくなるのは、すごく素敵なことだと思いますね。私の場合って、なぜ昭和歌謡が涙出るかっていうと、父なんですよ。親がギター弾いて歌ってくれたりしたものが、よみがえってくるわけですよ。懐かしさと、愛しさと、愛が。そういうものが今あるかなって。それがないと、不幸かなっていう気がするんです。私が音楽について懸念しているところはそこなの。親から受け継いで、自分が年をとったときによみがえる――それが薄れてきていて心配しちゃう。ジャンルわけしすぎちゃってるからね。でもそれは時代だから。
――歌手生活45年。こうして目を輝かせて新しいことに挑戦されている八代さんに、失礼ながら感動させていただいています。
【八代】 やっぱり歌が好き。みんなに喜んでもらって、そのテンションの上がった顔を見るのが好きなんですよ。いつまでも元気を出させてあげようっていう立場の側にいたいのね(笑)。そういう明るいリアクションを見ると、生きてる実感がするし、ああ、私はシンガーなんだなって感じます。
(文/西原史顕)
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2015/10/29