低迷期を乗り越えて活況を呈する韓国映画界
また、韓国で作られた韓国映画以外に、『G.I.ジョー バック2リベンジ』には、イ・ビョンホンが出演、ウォン・カーウァイの期待の新作『グランド・マスター』には、女優としてソン・ヘギョが出ていたり、ジャッキー・チェンの『ライジング・ドラゴン』にはクォン・サンウが、『中学生丸山』には『息もできない』で鮮烈な印象を残したヤン・イクチュンが出演していたりと、いたるところで韓国との関わりを持つ作品が増えている。
テレビでは以前のように韓流スターを見る事もなくなった昨今、映画界ではこうした動きがあるのはなぜだろうか。そこで、幾人かの識者にインタビューをしたところ、誰もが口を揃えて言うのは、一時期の韓国映画低迷の時期を経て、現在の韓国映画界は活況を呈しているということだ。
韓国では、人口およそ5000万人の市場で、2012年には『王になった男』と『10人の泥棒たち』で1000万人の動員を記録、2013年も『7番目の贈り物』がすでに1000万人を超す動員を記録している。そのほかにもラブストーリーの『私のオオカミ少年』や、クライムアクションの『ベルリンファイル』など700万人を超える作品が次々と登場しているのだ。
なぜヒットする?評価が高い?韓国映画に見える5つの軸
ひとつ目としては、韓流、K-POPスターの人気によって観客をひきつける作品がある。これには、JYJのジェジュン主演の『コードネーム:ジャッカル』や、FTISLANDのイ・ホンギ主演『フェニックス~約束の歌~』、期待の若手俳優ソン・ジュンギ主演の『私のオオカミ少年』などが当てはまる。
そして二番目として考えられるのは、韓国では400~700万人動員するメジャー級の作品ながら、日本ではウェルメイドな人間ドラマやラブストーリーとして、ミニシアター系映画として受け入れられる作品だ。ここには、『建築学概論』や少し前の公開になるが『サニー永遠の仲間たち』、そして前述の『私のオオカミ少年』が挙げられるだろう。これらの映画の特徴は、まだ商業映画の経験が少ない監督が手がけているということもある。こうした映画は、韓流ドラマにはアレルギーを示すような男性映画ファンが、意外にも観客として流入していたり、SNSを通じたクチコミでヒットにつながる例も多くなってきている。『建築学概論』に関しては、前田敦子が試写室ではなく、自ら劇場に足を運んだことをツイートしたことでも話題となった。
三つ目としては、『シュリ』の時代から受け継がれるクライムアクションの進化系作品が出てきているということだ。ここには、ソ・ジソブが表向きは会社員、でも実は殺人請負会社で働く殺し屋という役を演じた『ある会社員』などが入るだろう。荒唐無稽なストーリー展開とガンアクションは、香港映画を彷彿させる。また、韓国で1300万人の動員を記録した『10人の泥棒たち』は、韓国、マカオ、香港を舞台にして泥棒たちの物語が展開されていく。ここでも、香港からサイモン・ヤム、マレーシアからアンジェリカ・リーなどを迎え、スケール感を増している。また、東西分裂の象徴の都市であるベルリンを舞台に繰り広げられる重厚な本格スパイアクション『ベルリンファイル』もその流れに挙げられる。
四つ目としては、三大映画賞などで常連の作家性のある監督や、海外で評価の高い監督の映画が、現在そろって日本に来ているということがある。例えば、2012年の第69回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞に輝いたキム・ギドクの『嘆きのピエタ』は、ひさびさに本来のギドク節が戻ってきたと、かねてからの映画ファンをうならせている。また、ホン・サンスは、ヨーロッパで評価が高いという文句が、枕詞のように使われているし、最新作『3人のアンヌ』では、イザベル・ユペールを招いて、独特の世界を実現させている。
そして、最後の要素としては、四つ目と重なる部分があるが、韓国映画界をけん引してきた監督たちが、ハリウッドや欧米を舞台に国際的な映画を作っていることだ。先にも挙げた『ベルリンファイル』は北米でも公開された。また、『オールド・ボーイ』で有名なパク・チャヌクはハリウッドに渡り、ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン主演のミステリ―作品『イノセント・ガーデン』を完成させた。さらに『母なる証明』や『グエムル -漢江の怪物-』のポン・ジュノも『雪国列車』でハリウッドデビューを果たす。こうした動きは、10数年前の香港映画界にもあった。ジョン・ウーやツイ・ハーク、リンゴ・ラム、ピーター・チャン、アンドリュー・ラウなどが次々とハリウッド進出していたが、彼らの多くが現在は中国市場を重視しているため、その動きが韓国にシフトしているとも考えられる。
作品そのもののおもしろさがファンのすそ野を広げる
そして、そうした状況のなかから作り出されるクオリティの高い作品(=今の韓国映画)が、ここ日本でも続々公開されている。日本公開される韓国映画の本数自体が今年いきなり急増しているわけではないが、世界的に注目されることで話題になっている作品、内容のおもしろさから映画ファンの間でバズを起こす作品が増えていることで、今、韓国映画が目立っているのだ。
話題になる作品が多いというここ最近の状況は、そのおもしろさに気づいている人たちがじわじわと増えていることを示している。これまでのいわゆる“韓国映画ファン”だけではなく、若い年代も含めた幅広い層へと韓国映画を楽しむ人たちのすそ野が広がっている現状は、新たな映画ファンの開拓と映画シーンの活性化へつながっていくことが期待される。
(文:西森路代、編集部・武井保之)
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10人の泥棒たち ベルリンファイル
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