日本でのカバーや共演を熱望する台湾の国民的スター、クラウド・ルー
しかし、「流行に乗ることはしない。自分をしっかり持って表現しきることが大事」と自分の音楽性を守り、実は流行の移り変わりが早い(何せ小さな島で瞬く間に浸透するから)台湾に於いて、しっかり根をおろした音楽活動を続けている。
最近は連続ドラマに主演。「田舎から出てきた何をやっても失敗してしまう男の子」を演じ、さらに人気が爆発。60代、70代と年配のファンも増えているとか。日本のインストア・ライブにもやはり年配の女性客が来ていたそうで、ルー自身は「どうやって来たんだろう?」と不思議がっていたが、なんだか分かる気がする。なぜなら彼の音楽はどこか懐かしい風景が見えてくる抒情的なもの。よく台湾の秦基博とも星野源とも評され、台湾映画の名匠・ホウ・シャオシェンが描くような、昭和の日本を思わせる景色が浮かぶからだ。
90年代のフェイ・ウォンに代表される中国語圏ポップス人気も今は下火だが、台湾観光の人気は非常に高く、7月にも雑誌『BRUTUS』が台湾特集を組んだ。台湾旅行に興味を抱く人たちに、ルーの音楽は訴求していく力は十分なはずだ。
さらにルーは、「日本のシンガー・ソングライターと日本や台湾で一緒にライブをやりたい」と希望し、来日中には「くるり」とも親交を深め、共演を約束した。実現すれば、ルーの日本での活動にプラスになるだけでなく、逆に日本のアーティストが中国語圏で注目を集めるきっかけになる。事実、くるりのラジオ番組にルーが出演したことは、台湾の新聞がすぐに取り上げた。大がかりなプロモーションがなくても、地道なライブでの共演はアジア圏のアーティストたちの新たな市場開拓になるはずだ。
(文/和田静香)