美術監督・種田陽平氏、世界で求められるのは“細やかさと大胆なパワー”
目に見えないものから“意味”を引き出す力
「前作『空気人形』(09年)のときにも思いましたが、是枝さんには、映画のなかの目に見えないものから“意味”を引き出す力がある。今回も法廷劇という形式の裏に張り付いた大きな余白、ある種の謎を感じました。たとえばアメリカ映画の法廷ものの場合、見せ場は裁判にあり、そのなかで善悪をつけるドラマが展開されますが、白黒をはっきりつけないところが是枝さんの魅力で、企画当初から観客が自ら真実を考える映画を目指しているように見えました」
「撮影が進むにつれ、接見室のシーンが映画の核になっていったことがおもしろかった。接見室のセットを組む前に、撮影所の会議室に机や壁を置き、実際の大きさを監督と撮影の瀧本さんに見せて、撮り方を模索しましたが、あの時間があって、接見室のシーンが多様性を帯びたと考えます。真横からシンメトリーに撮る、天窓の上から撮るなどして、意図的に作り込み、狭いセットをフルに使った緻密な画作りができた。2人が座っているだけの動きのないシーンだから、アップを多用したり、案外サラッと撮ってしまいがちなところを是枝さんは、どこまでも食い下がっている」
レイヤーを増やす映画セットならではのマジック
「セットには細かい工夫を重ねます。接見室では裁かれる三隅と弁護士の重盛の違いを際立たせるために、背景となる壁の色を微妙に変え、現実の接見室には見られませんが、先に述べた天窓のほか、扉にも窓、その扉を開くと廊下の窓から外の風景が見えるようにした。窓があることによる光の演出、またレイヤーを増やすことによって感じる空間の広がりをねらってのことですが、映画のセットならではのマジックです。監督は役者さんに細かく演出をつけますが、美術も同じ。セットは作りものだけど、リアリズムを超えながら、細部にリアリズムを施す。観客に真実味を感じてもらうために」
「法廷も表情のあるセットを目指しました。日本の法廷にはない窓をつけたこともそうですが、壁にも厚みを感じる油絵のような表情が欲しくて昔のヨーロッパ建築などに用いられた技法で作りました。面倒なのでやる人は少ないですが、映画で生きれば、技法も廃れない。今はフラットに薄く仕上げるのが主流。けれど、意図的な重厚感は映画のセットだからこそできることだから。壁の深い色味は、役者さんのフェイストーンを美しく見せます。海外の作品では、必ず背景の色味と役者さんのフェイストーンの相性の話になりますが、日本ではあまり話題にならない。日本はリアル志向のせいか、白い壁を使いがちだけど、僕は役者さんの顔色を美しく見せたい。だから背景の色に気を使う。本作では僕のこの願いは実現されていると思います」
海外で体得した情報を日本の作品に取り込む
「海外作品においても当然、日本人ならではのデザイン力を求められますから、僕も日本人らしさは意識します。セットを作るとき、ディテールの細やかさのような日本人のスキルは滲み出ているとも思うし。でもそれだけでは世界で勝負できない。今、僕が滞在する北京の映画制作の現場には、いろいろな国の人が集まっていてすごくパワフル。どんなにテクニカルなピッチャーでも、メジャーリーグに行くとフィジカルな面が時として問題となるように、映画業界でもこれから世界で活躍していくためには、細やかさと同時に、スケールの大きなものにチャレンジする、大胆なパワーが必要だと思います」
三度目の殺人
監督・脚本・編集:是枝裕和
美術監督:種田陽平
キャスト:福山雅治、役所広司、広瀬すず
9月9日(土)全国ロードショー
(C)2017『三度目の殺人』製作委員会 【公式サイト】(外部サイト)